21日
月曜日
観劇日記・31『OPANPON☆NIGHT SELECTION』(オパンポン創造社)
『OPANPON☆NIGHT SELECTION』
オパンポン創造社
『夏と、俺とアイツとお前』
『鉄男取扱説明書』
『王様大脱走』
『赤い糸の先っぽ』
(おまけ)『ストラーイクッ!」
作・演出/野村侑志
出演/野村侑志 池下敦子 吉塚拓哉 ゴンダユウイチロー 斎藤友恵
於/in→dependent theatre(大阪)
2012年5月18日 鑑賞
今年の『ルナティック演劇祭』で台風の目となった劇団の、地元での二年ぶり
の本公演。20分〜30ほどの長さの芝居4本に、オマケ上演として、ルナ演劇祭
でもやった『ストラーイクッ!』を加えてのオムニバス。オパンポンとは以前、
文部省が男性の「オチンチン」に対して、適当な愛称のない女性器に対する
愛称を公募し、採用された(しかしまったく普及しなかった)という(本当か
どうかはしらないが)用語だそうだ。
とにかく、演劇祭での彼らの芝居が気になって、他の用事を整理して大阪まで
飛んでいって観てきた。かなりそういう意味では、のめりこんだ故の欲目が
感想には入る。極力それを排除して観ようと心がけてはいたのだが……いや、
やはり面白いものはどこで観ても面白い。今年観た公演の中では、間違いなく
質的にベストのものだった。
『ストラーイクッ!』の演劇祭のときの感想
http://www.tobunken.com/diary/diary20120402194808.html
を見てもらえばわかるが、この劇団の主宰者、野村侑志のスタイルは基本的に
ほぼ全裸、である。股間にTバックの、ネズミの(後で聞いたら犬だとか)
ぬいぐるみみたいな屹立したペニスケースを着用しているだけである。
で、その肉体が、ホモっ気抜きで、極めて美しいラインである。5年前の作品
だそうだが、衣装でごまかすことができない体型を維持することはなかなか大変と
思われる。演劇とは基本的に肉体の表現なのだ、ということを
ギリギリに飾りなく表現しているのがあの笑うしかないスタイルなのである。
その肉体と同じく、オパンポンの芝居はギリギリまでさまざまなものを省略して
いる。舞台装置は白幕一枚だし、大道具、小道具の類も基本的に何ひとつない。
家庭的に不幸な問題児の同級生との夏休みの思い出をつづった『夏と、俺とアイツと
お前』も、恋人のいない孤独な女とダッチワイフ(?)ロボットとの奇妙な関係
を描いた『鉄男取扱説明書』も、拘置所の中でのチンピラと王様を自称する男
との間にいつしか生じる友情物語『王様大脱走』も、そしてそれらの登場人物たちが
意外な場所で意外な運命の翻弄の中で関係を交錯させる『赤い糸の先っぽ』も、
人間と人間との(『鉄男〜』はロボットとの、だが)、うまくいきそうで
なかなかいかない関係構築の中で、ギリギリの線を必死で保とうとする者たちの
行動が笑いと、そして涙をさそう。
世の中は、基本、うまくいかない。『鉄男』の恋愛願望が最たるものだが、
『夏と』での親の事情、『王様』での、大なり小なり自分が背負っている、
“守らなければならない”もの、そして『赤い糸の』の、“運命”というもの、
それらのファクターが人間の欲する願望を実現させるカセとなる。
そして、そのカセのあるところ、“物語”が生じる。オパンポンの芝居のテーマは
「現在の自分からの脱却」なのだそうだが、そうか、その願望とカセとの摩擦
こそが“ドラマ”というものなのだ、と、改めて目からウロコをこそげ
落としてくれる。
『ストラーイクッ!』はそのドラマの究極の純粋さの抽出として別格の完成度
をもつが、その他では『王様脱出計画』がキャラクターの面白さとして最高
だった。拘置所で同室となったチンピラ犯罪者を、奇妙な武家言葉で諭す、
いやに落ち着いた男。彼はトパンという実在するのかどうか怪しい国の王様
である、と自称した。本国で革命が起こり、追放された身だが、自国では
王党派の国民たちが、自分の帰りを待っていると彼はいい、脱走計画に力を
貸してくれとチンピラに頼んでくる。人を疑うことをしらぬ王様の、その底抜け
に前向きな姿勢に、最初は馬鹿にしていたチンピラは、次第に魅かれ、友情のような
ものさえ感じはじめるが、しかし子供がいる彼にとり、その脱出計画は、密告すれば
刑期が短縮されるという魅力がある情報だった……。
チンピラ役の野村侑志の関西弁と、王様役の吉塚拓哉の武家言葉との対比は
そのキャラクターと共にまさに演劇的で、会話の中の何気ないギャグのひとこと
がラストにつながるオチまで、二人しか出てこないにも関わらず、一本の映画
を見たかのような満足感を味わった。ドラマにおける必須栄養素のようなものが
全て詰まっている“完全芝居”だからだろう。そうなると、芝居の長短などは
関係なくなってしまうのだ。
一本々々は短いが、それが4本。おまけも含めて上演時間が2時間10分という
長丁場だった。椅子も固い小劇場の環境で、途中休憩もないその長さが全く
感じられないのは本当に大したものだ。
そんな面白い劇団が、(観に行った初日こそ満席だったが)集客に苦労する、
というのは、巷間言われる小劇場ブームもまだ東京の一部分のみで、全国的には
未だしの感がある。何とか、野村氏には、西の小劇場旋風の目となってもらいたい
と切に思う。次の公演にも、スケジュールが合えば是非、駆けつけて及ばずながら
集客の一助になる所存であります。