裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

日曜日

古い映画をみませんか・3 【Battle Beneath the Earth】

『Battle Beneath the Earth』モンゴメリー・タリー監督(1967)

MGM配給のイギリス映画。
日本版は出ていないので原語版ビデオで見た。
とはいえ、ストーリィは英語版でもまったく支障なくわかる
程度に単純きわまりない。
要するに、60年代の冷戦ノイローゼが生んだ侵略もので、
中国共産軍が太平洋の底をハワイ経由でアメリカまでトンネルを
掘り(凄い根気!)、原爆をアメリカ各都市の地下に仕掛けて
同時に爆発させようとたくらむ話である。

こんな現実性のない計画であっても、中国人ならやりかねない、
娯楽映画のネタになるくらいのリアル性はある、と60年代の
イギリス人は思っていたのだろう。それくらい、当時の文化差は
東西で遠いものがあった、ということだ。

最初にその計画に気付く男が、ラスベガスの大通り(ロケかと思って
いたらセット撮影。金だけはかけている)の地面に寝そべって耳を
道路にあて、
「聞こえる……確かに聞こえる。何かが地面の下を通ってる!」
と騒いで狂人扱いされる、というオープニングが何とも。
ラスベガスの騒がしい大通りでそんな音が直に聞こえるような
計画ならすぐばれてしまうだろうが。

その計画を阻止する主人公のアメリカ海軍の士官を演じるのは
『シンドバッド七回目の航海』(58)でシンドバッドを演じた
カーウィン・マシューズ。その部下に『謎の円盤UFO』(70)で
ブレイクする前のエド・ビショップ。
だが、真の主人公はこの計画を立案・実行する責任者、中国軍の
チャン・ルー将軍だろう。この役に『007/ゴールドフィンガー』
(64)で、乗ったキャデラックごとプレスされてしまうギャングを
演じたマーチン・ベンソン。なぜかベンソン、『王様と私』(56)
の大臣など、アジア人の役を演じることが多い。太平洋の地下の基地に
まで仏像だの掛け軸だのツボだのを運び込み、ペットのタカを飼って
いる。これがイギリスにおける中国人のイメージなのだろう。
中国軍兵士たちはみんなイギリス人俳優が目の吊り上がった黄色い
顔のメイクをし、中国訛りの英語をしゃべっている。

テレビムービーなみの安っぽいセットで、ベニヤで作られたとおぼしい
原爆運搬車やレーザー光線車(これでトンネルを掘っていたらしい)が
がったんごっとんと石膏と発泡スチロール製の地下トンネルをのんびり
移動していく光景は何とも牧歌的で楽しく、私はこのB級(いや、C級
かな?)映画が嫌いじゃない。差別描写も、ここまでバカバカしく
徹底すればツキヌケたイメージになって嫌味がなくなる。むしろ、
大衆心理の裏にある黄禍感覚をうまくすくい取って商売にする
たくましさこそエンタテインメント業界のパワーの根源だろう。

ところで、ヒロインのヴィヴィエンヌ・ヴェンチュラという女優さん、
ワンシーンだけ肉感的な胸チラを見せてくれるが、どういう人かと
IMDbを調べてみても、ほとんど個人データがなく、ただ
「ブルネイの国王とデートした」
とだけあった。おお、ブルネイですか。
村上麗奈の先輩ですね。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa