30日
日曜日
古い映画をみませんか・1 【忍者と悪女】
『忍者と悪女』(1963)ロジャー・コーマン監督
ポーの『大鴉』が原作、と称するのも度胸があるというくらい
改変しているが、配給の大蔵映画がつけた『忍者と悪女』という
邦題も凄い。今、見るとなんでこんなタイトルを、と思うところだが
この映画の日本公開が1964年、折しも日本ではTV『隠密剣士』
の大ヒットによる忍者ブームのまっさかり。
忍者とつければおっちょこちょいが洋画であっても映画館に
飛び込んできたのであろう(少なくともそれを期待したのであろう)。
内容はユルいが、ビンセント・プライスやピーター・ローレといった
ベテランたちがドタバタ・ギャグ演技をやっているのが痛々しくない。
それどころか、嬉々としてやっているところが非常に楽しい。
魔法に使う死人の髪の毛が足りない、というのでプライスが、
地下の納棺室の棺桶をコジあけて、自分の父親の髪の毛を少し貰いに
いくと、父親の死体が突如その腕をつかんで“気をつけろ”と注意する。
プライスも“はいはい、父さん”という感じで驚かない、などという
ブラックで馬鹿馬鹿しいムードがいい。
これも同時期にテレビで放映されていた『アダムスのお化け一家』や
『マンスターズ』のノリ。つまり、この時期のアメリカではこういう
グルーミーなギャグが大流行りだったのである。
日本の忍者ブームは単にサツバツで、こういう余裕のある
作品に乏しかった。プライス、ローレ、カーロフの主役三人の魔法合戦を、
近衛十四郎、三島雅夫、薄田研二の三人の老忍者の忍術くらべ、にして
東映でパクって映画化してくれていれば、とか思う。
そうしたらジャック・ニコルソンの役は山城新伍、ヘイゼル・コートは
丘さとみか。東宝でなら渡辺篤、榎本建一、柳家金語楼の喜劇トリオ
でやってほしいし、大映ならぐっと豪華に市川雷蔵、勝新太郎、
中村鴈治郎で行けるかな、とか、想像するだけでウキウキできるのも
古い映画ファンの特権だろう。
ところで、プライスとカーロフが魔術で戦うとき、お互い指の先から
電流のように念波(?)を発して渡り合う。この念力描写は、
後にハリウッドで定番となった(最も有名なのは『スターウォーズ』
シリーズの皇帝の攻撃)描写の元祖なのではなかろうか。