裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

月曜日

古い映画をみませんか・13『謎の空飛ぶ円盤』

マイケル・コンラッド監督『謎の空飛ぶ円盤』(1950)

http://www.youtube.com/watch?v=J7sWqwLzaHI&feature=player_embedded
↑予告編。

原題はそのものズバリ『THE FLYING SAUCER』。
おなじみカルト映画のDVDメーカーWHDジャパンから。
いや、素晴らしい。
こんな作品を字幕付きで観賞できるとは思いもよらなかった。
WHDジャパンさまさまである。
とはいえ、パッケージにある公開年は1953とあるが実際は1950年。
ここらのいいかげんさもWHDジャパンである。
それくらいどうでもええやんと思うかも知れないが、実は1950年、
という公開年こそが、この作品のキモなのだ。ひょっとして、唯一の価値
かもしれない。
つまり、ケネス・アーノルドが1947年6月に謎の飛行物体を目撃し、
それをマスコミが“フライング・ソーサー”として発表してからわずか
三年後(劇中に大写しになる電報の日付が1949年8月とあるので
撮影は二年二ヶ月後)に作られた映画なのだ。
世界初の“空飛ぶ円盤映画”という栄誉をこの作品は担っているのである。

UFOという存在がそもそも根源からして怪しげなのは、実際にアーノルドが
目撃した三日月型ではなく、マスコミが名付けて報じた“円盤”という名称に
合わせた目撃報告が、記事の発表直後から続出したことである(この映画の
冒頭にもそういう各地での目撃シーンが出てくる)。そういう意味で、空に
目撃される物体そのものはUFOでいいが、20世紀後半に起った一連の
UFO騒動全体は、“空飛ぶ円盤事件”と称するべきであると私は思っている。
その、映像における最初の(それ以前に、すでにTVドラマでは登場して
いるらしいが)現れがこの映画であり、かつ、この映画の特長は、そこに
宇宙人というファクターが介在していない(ネタバレしてしまうのでこれ以上は
言えないが、ネットではもうあちこちでバラされている)ということであろう。
UFOと言えば宇宙人、というのが(異次元人だとか未来人とかいう説もあるが
9割まではやはり宇宙人説だ)通り相場になった現在から見ると異色だが、
それはこの作品の一年後に作られ、この映画とは比べ物にならない完成度を示した
『地球の静止する日』(1951)が映画界に与えた影響があまりに強かった
ためである。逆に言うとこの映画はそのような宇宙人説の波をまだかぶっていない
貴重な映画なのだ。公開年が価値だと言った意味がおわかりだろう。

残念ながらこの映画のネウチはそこまでで、後は映画としては全く面白くない。
何故か大々的(?)なアラスカ・ロケを敢行し、雄大な自然の描写がエンエン
と続くが、こっちはそんなもんを見たくて映画を見てるのではないのである。
ロマンスもアクションもショボいことこの上ない(ヒロインのパット・ギャリソン
のおっぱいはちょっといいW)。

肝心の円盤が、脇見をしていると見逃してしまうくらいホンのちょっとしか
出て来ないし、その飛び方がジグザグの、目撃談によくある飛び方である
ことは感心だが、実物大の造形物のデザインは、どう見てもそういう飛び方
が出来る作りではない。まして、オチが……。

とはいえ、1949年にソ連が核実験を成功させ、一気に戦略的優位をくつがえされた
アメリカの精神的あせりが産んだ、空飛ぶ円盤という20世紀最大の妄想の、
これはかなりチャチとはいえ、その映像化の嚆矢である。あたかも三畳紀の
おしまいあたりにちょこちょこ走り回っていたトカゲが、やがてジュラ紀、白亜紀の
恐竜群となって大繁栄を迎えるように、円盤映画も大発展を遂げる。
この映画には、その狂気の原点である東西対決がストレートな形で表現されている。
それ以前のスリラー映画と円盤映画をつなぐミッシング・リンクこそこの映画と
言えるだろう。

この映画、主演のマイケル・コンラッドが制作、脚本、監督、出演の四役を
こなしている。かなり空飛ぶ円盤に入れ込んだあかしであろう。彼もまた、
50年代のアメリカを襲った円盤熱(ソーサー・フィーバー)の感染者だったの
だろうか。IMDbによればその後もB級映画に出演を続け、数年のブランク
の後、1956年に出演した一本を最後に映画界を去っている。
その一本の題名が『怪獣王ゴジラ』(1954年の日本映画『ゴジラ』にレイモンド・バーら
アメリカ人俳優の演技シーンを撮り足して再編集したもの)。
やはりわれわれスキモノにとり忘れてはならない名前のようだ。

UFOに興味がある方であれば、低価格でもあり、資料として備えておくべき
作品ではある。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B004KU8VIO/

Copyright 2006 Shunichi Karasawa