裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

火曜日

(無題)

朝7時20分起床。入浴、朝食。今日も自室。アボカド半個、ミカン一ヶ、コーヒー。ミクシィ書き、10時半出勤。

電話数件。『世界一受けたい授業』次回収録の件、エスト(制作会社)から。4月のスケジュールについても打ち合わせる。毎度々々、“他局から何かオハナシは”とオソルオソル聞いてくるので、ざっくばらんに今後のつきあいについてビジネスとして話し合いましょう、と持ちかける。

11時半、東武で待ち合わせて、新潟へ帰るYくんと。このあいだの『マンガ夜話』収録の裏話など聞く。

『新楽飯店』で飯、『ヴォルール・ドゥ・フレール(花泥棒)』でコーヒー。職場のグチ聞きつつ、いろいろ先の企画打ち合わせなど。

別れてその足でまた東武。徳間書店『アサヒ芸能』打ち合わせ。編集K氏、編集長T氏。T氏はサックス奏者の坂田明に似ているがやり手の編集長として斯界ではつとに著名。その人がわざわざ出張ってきているのにちと驚く。時間割で打ち合わせ。3000号記念号からの新企画ラッシュの目玉に、という依頼にちょっと恐縮する。

硬派な社会時評を、というような注文がアサ芸から来るとは思わなかった。村崎さんとの『社会派くん』を読んでの依頼らしいが、頂いた最新号を開くと安達さんの読切官能小説が載っており、イラストが森園みるくさん。
「この森園さん、村崎さんの奥さんですよ」
と言ったら驚いていた。

帰宅、週刊文春から日曜の滝沢取材のゲラと電話。Sくん、ジャニ系の顔にも似ず達筆のメッセージで、「当方の拙文により不備なものとなったことをお詫びする次第」などと硬派な文章、さすが爺い作家とのつきあいを仕込まれる文芸春秋社の人間だけのことはある。あと週プレのMくんからも電話、打ち合わせの件。イラストのことも伝える。

4時15分家を出て、神楽坂日本出版クラブ会館。神楽坂の日本出版クラブ会館、まだこんな浮世離れしたような施設が存在していられるのだねえ、と一驚。神楽坂の一等地にぜいたくな三階建て、クロークがあって喫茶室があってと完全なホテル形式のクラブだが、本日の利用者はどう見てもわれわれ以外いない。会議室で対談のあとは一階のレストランから食事(フランス料理)が運ばれて、給仕がサーブ。しかも二皿持ってきて
「メインはステーキとホタテ貝とどちらになさいますか」
と。余った方の料理はどうするんだろう。

日能研『学習レーダー』の記事で紀田順一郎先生と対談、荒俣宏氏の(最初の結婚の)仲人まで務めた方で私のような駆け出しエセ古書マニアにとってはおそれ多い大物であるのだが、しかし奇人変人揃いの古書マニアの中では希有な常識人でもある方なので、ある意味安心である。若い頃の読書、というテーマなので、いきなり
「昔の『少年倶楽部』の付録の小冊子に、野良犬に襲われたとき追い払う方法というのがあって……」
と話しかけられる。

「あ、胸に両手を当てるというやつじゃないですか? 犬は野生だった頃の本能でゴリラを恐れるからという……」
と話をはさむと、
「いや、私はこの話を何年もいろんな人にしているが、知っていたのはカラサワさんが初めてだ。感動してます」
と握手を求められ、それからはスムーズに、話がはずむ。ツカミに成功した、というやつであろうが、この犬撃退法、私は親父から子供のころ聞かされて知っていたのだが、そうか、奇しくも紀田先生は私の親父と同い年。たぶん、同じものを読んでいたのであろう。

結局、食事をはさんで5時から9時までの4時間、とぎれなく古本ばなしに興じてしまう。対談は1時間。残りは編集のIさん(畸人研究の今さん)の趣味のようなもの。荒俣さんの結婚式のときの珍談や裏話、他の古書マニアのエピソードなど、話尽きず。それにしても紀田先生の記憶力、なかんずく固有名詞がすらすらと出てくることに感服。二十数歳年下の私がエート、エートなのがまことに恥ずかしい。

途中でFRIDAYから電話。このあいだの四コマに最後の確認で編集長からダメ出しがあったという。イヤそれは裏をとってある、これこれの単語でグーグルかけてみてくれとTくんに指示。その後連絡なかったところを見るとOKだったのだろう。

帰りはハイヤー呼んで、しかもタクシー券ではなく“お車代”(余った分はご自由に、というやつ)。こういうゼイタクな扱いされるとかえって
“この出版不況をどう思っておンのか!”といささか憤慨してしまうのだが、しかしお車代はウレシかった
(最近滅多にないですからねえ、こういう扱い)。

タクシーで新中野まで帰宅、水割缶ひとつ空けてネットなど見る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa