裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

土曜日

古い映画をみませんか・27 『謎の狼女』

『謎の狼女』(1946)

『狼男』映画の本家、ユニバーサルの作品。
ロンドンの名家、アレンビー家の娘であるフェリスは、許嫁のバリーとの
結婚を目前に控え、幸せいっぱいの日々を送っていた。しかし、巷では
ロンドン公園での殺人が新聞をにぎわせ、その犯人は狼の姿をした女だ
という噂が立っていた。フェリスは新聞でその記事を読んで不安に襲われる。
このところ、不自然な眠りを繰り返していた彼女は、目をさましたとき、
覚えのない血や泥が手足についているのを不審がっていたのだ。
そして、フェリスは、叔母から恐ろしい話を聞く。このアレンビー家には、
代々、血筋の者が狼に変身するという呪いがかけられているというのだ……。

主演のジューン・ロックハートはテレビの人気番組『宇宙家族ロビンソン』
(1965〜68)で、美人のママ、モーリン・ロビンソンを演じて有名。
その前には、同じくテレビの人気番組『ラッシー』(1958〜64)で、
ラッシーの飼い主ティミー少年の母親を演じて、これまた有名。つまり、
アメリカ人にとっての“理想のお母さん”女優と言える。
http://www.nndb.com/people/012/000022943/

そしてその婚約者を演じるドン・ポーターはこれまたアメリカで大人気だった
テレビ『ギジェットは15才』(1965)で、やんちゃな少女・ギジェット
の、男やもめのお父さんを演じて、これまたまたアメリカでは理想のお父さん
として知られている。一方で映画ではロバート・レッドフォードの『候補者
ビル・マッケイ』(1972)の対立候補などの、旧世代の代表という憎まれ
役も演じているが、それもお父さん像のひとつのバリエーションだろう。
http://en.wikipedia.org/wiki/Gidget_%28TV_series%29

だからこの『謎の狼女』は、その後の二人を知っている身として見ると、
お父さんとお母さんの若き日のロマンス、みたいなエピソードに見えて、
どうしてもくすぐったくなるのを押さえ切れない。と、いうか、この二人の
ラブシーンのギコチなさに、ああ、この二人、どちらもその後ロマンチック
な役でなく、お父さんお母さん役で人気を得るに至ったのも当然だな、という
思いにかられてしまう。二人とも決してダイコンではないのであるが、それ、
役者にはニンというものがあるのである。

とはいえ、この作品の評判が悪いのは二人のせいではない。看板に偽り
ありというか、タイトルにある狼女が×××××、ただの××××のための
×××であった、という拍子抜けのオチである、というところにある。
タイトルに期待して映画館に足を運んだ観客が不満をもらすのも無理はない。

だが、と、いうことは裏を返せば、心理サスペンスとしてはなかなかよく
出来ているわけで、自分は呪いをかけられて、自分の知らないうちに殺人を
犯しているのではないか、と恐怖し、パニックに陥る女性の心理を丁寧に
描いている。ジューン・ロックハートの、ちょっと神経症的な大きな目が
その不安をよく表している。

併映用の、61分という短いランニングの作品でなく、90分以上かけて
じっくりとそこらへんを描き、この作品では早々と殺されてしまう、おとぼけ
キャラクターだが実はやり手、というレイサム刑事(ロイド・コリガン)
にきちんと事件を解決させ、ドン・ポーターにもっと見せ場を作れば、
サスペンス・ミステリの佳作になり得たかもしれない、と思うと非常に残念。
なにしろ、ヒーローたるドン・ポーターが婚約者の危難にすわと駆けつけた
ときには、すでに真犯人は
「××に××で××で×××××××いた」(ネタバレは下に)
のである。

1946年、長かった大戦が終わり、東西対立による緊張が世界を覆うまで
の束の間の平和な時代。これはそんなのんびりとした時代の狭間に生れた、
のんびりとした怪奇テイストミステリ映画なのである。





























「勝手に転んで死んでしまっていた」

Copyright 2006 Shunichi Karasawa