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2013年8月10日投稿

個性派女優の時代に【訃報 アイリーン・ブレナン、カレン・ブラック】

個性派女優二人の訃報、しかも同じ病名で相次いで。

アイリーン・ブレナン7月28日死去。80歳。膀胱ガン。
『スティング』(73)で、詐欺の天才ゴンドーフ(ポール・ニューマン)の情婦を
演じていた。情婦と言っても、ギャングに追われて身を売春窟に隠しているニューマンを完全に尻の下にひいているおかみさん、という感じ。
伝説の天才ゴンドーフにあこがれてその居場所を訪ねた若造詐欺師フッカー(ロバート・レッドフォード)が、うら寂れた昼間の売春宿の前を掃除している女性に声をかける。ふりむいたその顔が、“可愛いブルドッグ”という感じのご面相。おまけに目つきが鋭い、いや悪い。レッドフォードを何だいこの小僧、という感じでじろりとにらみつける表情の凄かったこと。それでも、ニューマンと彼女の仲はオトナ同士の深いところで愛情深くつながっているというのがちょっとした会話から伝わってき
て、公開時、山藤章二氏が「脇役好きの僕をうならせた」と評していた。

深情けの情婦役がこれで定着したか、『名探偵登場』(76)ではピーター・フォーク演じるハードボイルド探偵サム・ダイヤモンドの情婦兼助手のテス・スケフィントン。

ボガートを気取ったキザなセリフを乱発するも全く頼りないサムに徹底してコキ使われ、しかもキスすら許してもらえない。どうもサムはホモなのじゃないか、と疑っている。

最後は時限爆弾を仕掛けた部屋に閉じこめられ、絶体絶命。サムは初めてテスに謝る。
「・・・・・・すまなかったな、テス。給料も未払いのままで」
愛する男と一緒に死ねることに、むしろ満足そうに「いいのよ」と微笑むテス。
「・・・・・・最後の手段だ。一か八かやってみる。向こうを向いてな」
一世一代の男らしさをみせてくれるかと思いきや、
「俺は・・・・・・泣くぞ」
とオイオイおめきだす。その時のテスことブレナンの「あ〜あ」の表情が実によかった。

アニメのベティ・ブープにちょっと似た顔立ち。そう言えば再びピーター・フォークと組んだ『名探偵再登場』(78)での彼女の役名はベティ・ディブープだった。

アカデミー賞候補になり、テレビ版ではゴールデン・グローブ賞とエミー賞を獲得した『プライベート・ベンジャミン』(80)でのゴルディ・ホーンの上官役が代表作だろうが、私にとってはアイリーン・ブレナンと言えば上記二本の情婦役がもっとも印象に残っている。そういう名女優だけに、安っぽいアメリカ版BLドラマ『BOY’S LIFE2』(97)に出演していたときにはビックリしたものである。なんでこんなのに出ていたのか。腐女史だったとか?

次いでカレン・ブラック。8月8日死去。74歳、膀胱ガン。
この人もいわゆる“美人女優”という顔はしていない。目も口もデカくて、いわゆる濃い顔というやつだった。男を取って食いそうな顔だったが、時代が幸いして、そういう個性派女優に脚光があたり、F・コッポラやデニス・ホッパーなど、才能ある監督が相次いで彼女を起用。70年代のイメージ・ガールという感じすらあった。

その勢いで旧時代の監督作品にも多く出演、中でも一番の大物はあのアルフレッド・ヒッチコックで、最後の監督作品『ファミリー・プロット』(76)のヒロインに抜擢された。ヒロインと言っても悪人側で、事件を解決する側のヒロインはバーバラ・ハリスだったが、グレース・ケリーだとかイングリッド・バーグマンのような正統派美女がお気に入りだったヒッチコックは、映画会社からキャスティングを指示されたこの二人の女優に対し不満で、どこがいいんだとブツクサ言っていたとか。70年代の新感覚美女だったのだ。

名前がブラックだからではないだろうが、黒ずくめの服装が非常に似合う。上記『ファミリー・プロット』もそうだったが、アポロ陰謀論の元ネタになったと言われているピーター・ハイアムズの上質なサスペンス『カプリコン・1』(77)では、特別出演的な位置で、主人公エリオット・グールドの同僚、女性記者のジュディ・ドリンクウォーター(どういう名前か)。出演シーンはわずかなのだが、これも黒ずくめですらりと足が長く、「いい女だなあ」と回りの男たちの視線を集めていた。

残念なのは夫と共に熱心なカルト宗教、サイエントロジーの信者であったということである。サイエントロジーは精神的覚醒をうながすことで身体的な病気を完全治癒させると謳っているが、彼女は死のまぎわにもなお、その信仰を保っていただろうか。

とにかく、二人とも舞台出身(ブレナンはブロードウェイ、ブラックはオフ・ブロードウェイ)で、演技力に関しては一級品、そして存在感は同時期のどんな女優にもひけをとっていなかった。私の映画歴における、リアルタイムでのカリスマ女優だった二人が、同時期に同病で亡くなる。これはかなり後々にジャブとなって効いてくるのではないかと思うのである。

R.I.P×2。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa