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2013年4月13日投稿

【祟らぶ】アクシデントの2日目、感動の3日目

一日、日記が飛びました。
アクシデントの対応と善後策に駆け回っていたためです。
すでにツイッター等で情報は把握いただけているかと
思いますが、公演二日目、夜の回でアクシデントが起きました。

この回はお客様もぎっしりの状態で、受けも非常によく、
頭からガンガンと笑いがとれていました。
こういうとき、役者は本能的に無理をします。
芝居も後半三分の一に差し掛かったとき、異変が起きました。
インプロに近いコント風シーンで、初音ミコ役の藤田昌代ちゃん
が、大橋健一くんにドロップキックを見舞うというアドリブを
やり、その後、様子がおかしくなりました。
演出席で見ていても、意識が朦朧としているのがわかり、
顔面が蒼白になって、とうとう舞台の上で倒れてしまいました。

キックを見舞ったあとの着地で腕をついて骨折してしまい、
そのショックで意識が混乱していたようです。

いそいで救急車を呼び、スタッフが付き添って病院に搬送。
そして舞台の方は一旦中断のあと、お客様にご説明し、
急遽、残った場面を「私が藤田昌代の代役をつとめる」という
ことで(!)最後まで演じました(ここで打ち切って入場料を
お返しするか、私が演じて最後までやるか、を挙手でお客様に
回答してもらったところ、圧倒的に後者が多かったので。
結局、救急車に付き添った友人の方の他は、ひとりも席を
お立ちにならなかったのには感動しました)。

終演後、病院に駆けつけてドクターの説明を聞いたところ、
手術や入院が必要なほどではない、とのことで、ホッとひと
安心でしたが、今度はミコの部下のミケ役を演じていた星野
有里ちゃんが、昼に楽屋でぶつけたアキレス腱が痛みだし、
立っていられない状態になってしまいました(ショックも
あったのだと思います)。こちらも、スタッフが病院に
連れていって応急措置をとり、家まで送り届けました。

10人のキャストのうち、2人までが欠けて、私の頭の中には
「公演中止」の四文字が重く浮かび上がってきていました。

そんなとき、昌代ちゃんの親友である五十嵐浩子ちゃんが
「唐沢さん、もし中止になったら、いちばんダメージを
受けるのはあの2人です。彼女たちのために、何とか公演、
続けられませんか」
と言ってくれました。アドレナリンがこれで一気に噴出
しました。

たまたま、そこで携帯が入り、状況を心配したメンバーが
新宿駅に集合しているとのこと。そこへ向う時間で、
「あそこはこうして、ここはこうして」
と構成の変更案を頭の中で組み立てていました。
そして、幸いなことに、集まったメンバーの中に、ミコの
代役をたのもうと思っていた中村千晃ちゃんがいました!

残りのメンバーも、さすがは演劇人です。むしろ、この状況
をどう切り抜けるか、ということでテンションがあがって
いました。
「ショー・マスト・ゴー・オン」
こそ演劇人の合言葉なのです。
千晃ちゃんも、至極当然のことのように、代役(大きすぎる
責任がともなうことですが)を引き受けてくれました。
経験値では昌代ちゃんには及びませんが、実は彼女、
福井生まれで、日常での会話は非常におっとりした福井弁
なのです。
「それを使おう。ナチュラルにまさるキャラ作りはないから」
と決めました。これでだいぶ、頭の中で
「うん、この代演、いける」
との思いが高まっていきました。

それから、興奮を静めるためにちょっとだけアルコールを
入れて、いろいろ話し、帰宅してともあれ体を休めて、
翌早朝、各所からの報告類を聞きながら、再構成台本を
書いて、劇場入りしました。劇場事務所の方でも、公演続行
には驚いていたようです。まずは酒と塩を供え、将門様に、
「お鎮まりください」
とみんなで祈り、稽古に入りました。

ミコ役は、劇中で何度かキャラクターが変わります。
その稽古を、相手役の中澤隆範くんと千晃ちゃんは朝から
やっていました。また、インプロ部分はその道のプロである
大橋健一くんにまかせました。

演出補の島敏光さんが、
「てっきり、プロンプを入れたりナレーションで処理する
と思っていたけど、ここまで正攻法でいくとは」
と言って驚いていましたが、ここはきちんと応急措置でない
ものを見せるのが役者根性でしょう。

・・・・・・そして、緊張のマックスな状態で迎えた翌日のマチネ。
演出家席で見ると、舞台袖に待機しているときもまだ台本を
ペンライトで照らしながら確認している千晃ちゃんの姿が
見えました。私の緊張など問題にならないくらいの緊張だった
と思います。

いよいよ出番。最初の一声が発せられたとたん、千晃ちゃんは
初音ミコになりました。

驚くほどのセリフのなめらかさでした。キャラ変わりで、
福井弁が出たとき、お客様からはごく自然な、しかし大きな
笑いが起こりました。驚いたことに、アドリブまでまじえて、
千晃ちゃんはベテラン女優もかくやの落ち着きで、最後まで
ミコを演じきりました。舞台監督のIさんや音響のMくんに、
何度演出席からGJサインを送ったことか。

この日の客席には、演技監修の大塚周夫さんがいらっしゃった
のですが、大塚さんは昌代ちゃんがお気に入りだったので、
大変にその休演を残念がりながらも、
「その代演の子にとって、これは大きな飛躍のチャンスだよ。
そこから認められた子は大勢いる。頑張ってほしいねえ」
とおっしゃり、終演後、
「思っていたよりずっとよかったよ!」
と笑顔で手を握ってくださいました。

終演後、楽屋で同じ事務所の長橋有沙ちゃんと千晃ちゃんが
抱きあって泣いていました。不安、動揺、混乱の中で、見事に
やりきった喜びが噴出したのでしょう。

中村千晃、女優のステップを一段、登った日だった、と思います。

そして、さらに感動的だったことは、藤田昌代、星野有里の
休演で出たキャンセルが一枚もなかったこと。それどころか、
休演を発表したあとでまだ、彼女たちの名前での予約が入り続け
ていることです。こんな事態は経験したことがありません。
彼女たちの人間的魅力が、そのようなファンたちを集めている
のでしょう。

アクシデントを排除する、というのが現場での責任者の仕事です。
アドリブだったとはいえ、役者に怪我をさせてしまったことは
この公演の責任者である私がその責めを負わねばなりません。

しかし、そのアクシデントからも、人は大きなことを学べ、また
大きな感動を得ることができる。今回、それを知ったことだけでも
私は満足しています。

アクシデントを乗り越えて役者たちの意気はますます軒昂!
日曜日まで舞台は続きます!

2013年4月10日(水)から14日(日)
於 下北沢小劇場楽園 http://www.honda-geki.com/rakuen.html

料金 前売:3200円 当日:3500円 平日昼割(11,12)3000円

10日 19:30
11日 14:30 19:30
12日 14:30 19:30
13日 14:30 19:30 
14日 13:00 18:00
(開場は開演の30分前)

http://www.noandtenki.com/tatalove/#form
↑予約はこちらから!
複数申し込みの方は人数(チケット枚数)をお書きください。
また、役者さんからの紹介があった場合、その名前もお書き込み
いただくと役者にチケットバックが生じます!

写真は見事な代演をつとめた中村千晃。女を上げました!

Copyright 2006 Shunichi Karasawa