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2012年10月25日投稿

Fカップのサブカル 【訃報 冴島奈緒】

9月29日、元AV女優で歌手・俳優の冴島奈緒さんがガンで死去。44才。80年代半ば、AV女優が時代の尖端の存在として注目を集めるようになった頃の先頭を走っていた、かなり過激なタイプの人だった。セックスシーンの、絶叫に近いあえぎ声が印象的だったが、あれは「他の女優のビデオとの差別化をはかろう」という戦略だったのではないかと思う。テレビ(『11PM』)出身だけに、自分の“見せ方”を心得ている女優だった。

小林ひとみという先達はいたが、“スリムな体形だがおっぱいだけは大きい”という、それまで生物学的には不可能に近いとされていた体形を具現化した、ある種の“妄想少年御用達”的な人だった。70年代以前の、とにかく突っ込めればいい、という肉体労働者的性欲から、“巨乳によるパイズリ”という、多分にビジュアル重視の性欲へと移行(それは視覚的刺激がこれまでの性欲亢進グッズとは比べ物にならないほど大きいAVの出現による現象だった)した、シンボルのような女優が冴島奈緒だったと思う。

Fカップ女優というのがウリだったが、AV女優のおっぱいの理想は巨大な乳房につんと尖った小さな乳首、であって、乳輪の大きなおっぱいはマニアには嫌われていたが、彼女だけは例外だった。『乳輪火山』というタイトルのAVが出たときは笑ったものである。

当時のサブカルチャーブームはエロ文化をオモテ通りにひきだす、というのが活動の主体であり、文化人たちがこぞってエロを語り、それに乗って彼女もマスコミに自分を売っていた。私も一度、そういう類いの集りで彼女と中華料理食べながら話をしたことがある。すでに一線からは退いていた時期だったが、小説を書いているとかで、まだまだオーラを発していた。

アイドルという存在を、それまで性とは無縁なものとして規定していた日本文化が、180度その視点を変えた時代の、いわば針が左から右へ振り切れた地点のアイドルが彼女だったと思う(さすがにそれもいろいろ問題があり、現在はやや中間にもどっている)。

その後、一緒に仕事をした人に聞いた噂では、とにかくパワーのある人で、がんに冒されてもなお全速力で走り続けるような、破天荒な生き方をしていたようだ。人より何倍も回転して生きている人は、他人より早く燃え尽きるのだろうか。あの、過激なからみシーン(本人は疑似だと言っていたが)が、その人生に重ね合わさってイメージされてならない。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa