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2012年8月29日投稿
英雄の孤独【訃報 ニール・アームストロング】
8月25日、“人類史上初めて月面に立った男”ニール・アームストロング死去。82歳。心臓外科手術の合併症。
1969年の月面への第一歩の映像を、どこでどのように見たか、記憶がはっきりしない。あの当時はテレビも雑誌もオマツリのように毎日々々、アポロでなければ夜も明けぬ日々だったので、記憶が混淆してしまったからだろう。子供心に一番印象に残ったのは、アームストロングという名前で、もう当時、その意味するところがわかる程度の英語知識はあったのだろう、こういう強そうな名前の人なら月にだってそれは到達できるだろう、と感心した(?)のを覚えている。
死去のニュースにかこつけて、“43年間ウソをつき通した男、死す”というような日記があるのをいくつも見かけた。アポロ月着陸陰謀説などという、いまさらなトンデモをまだ信じている人の多いことにちょっと呆れるが、これは副島隆彦はじめ、反米・嫌米の人間たちによる、アメリカという国をおとしめるために、アメリカの行った代表的な功績を否定したい、という願望の現れだろう(アメリカ人の場合は自国政府を否定したい、になる)。裏をかえせば、アポロによる月着陸は、それだけアメリカの行った代表的国家プロジェクトの成功例であり、ニール・アームストロングこそまさにその主人公、アメリカという国家を代表する人物だった。われわれにとり、まぎれもなく同時代人中ナンバーワンのヒーローだった。ヒーローは、崇拝され、また、否定される運命にある。
皮肉な話だが、月着陸陰謀説(ムーンホーク)が広まった一因として、肝心のアームストロング本人が自らを語ること少なく、月着陸から数年後にはNASAを退職し、大学教授、企業顧問などという職業についてアポロ伝説の表舞台から退場してしまったということがある。2005年になるまで伝記も出さず、サインすることすらこばんでいた。これは、彼の月からの帰還の42年前、やはり世界的偉業を成し遂げて世界的有名人になったチャールズ・リンドバーグの後半生が、愛児の誘拐殺人、政治的発言への反発などでさんざんなことになった、という“歴史”を踏まえてのことだったという(リンドバーグはアームストロングの月着陸のとき、まだ存命だった)。ことにアームストロングは月着陸の7年前に二人目の子供(リンドバーグと同じ女の子)を脳腫瘍で亡くしており、我が子を失うことにトラウマを覚えていた。“世界一の有名人”になった彼が次にやろうとしたことは、世界中の人々の注視から逃げ隠れることだったのである。ヒーローとなった者の孤独と恐怖を、世界で最も味わった人物と言えるだろう。
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ところで、これも悪趣味な偶像破壊かもしれないが、女性週刊誌的興味で言うとニール・アームストロングは月着陸の快挙を間にはさんで40年近く連れ添った妻のシャロンと1994年に離婚し、同年、2年前からつきあっていた15歳年下のキャロル・ヘルド・ナイトと再婚した。64歳のときである。やっぱり月に行くくらいの男は元気だと感心し(笑)、かつ、世界的ヒーローが人生の優等生でなく、そのような人間臭い面を持つことに、かえってホッとするのを覚えるのは私のような俗物だけだろうか。
R.I.P.