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2012年7月20日投稿

つぶやき日記7月11日〜15日

7月
11日

公演二日目。毎朝の稽古準備いろいろからは解放されたが、それでも雑用は多々。この一週間、ろくに朝食はとれず。豆のスープくらい。昼は基本抜き、夜は飲み以外は軽い野菜の煮付けなど食べるだけ。それでも動けるのは脳内アドレナリン出まくりなのだろう。

ゆうべのドタバタでベギにあやまり電話かける。いろいろ叱られてハイハイと頭を下げる。いや、しかしドタバタにもほどがある初日だった。もっともそのドタバタが舞台の方に影響しなかった(何ヶ所かあった漏れ明りなどを除いて)のはせめても。とはいえ、ドタバタにもほどがあったなあ(笑)……。

喫緊の用事からは解放されたが、まだまだ、受付回りのことだの、細かい部分の演出ナオシだの、やらねばならないことはいろいろありすぎである。メモ、山のようにとる。

舞台関係以外のメールもだいぶ溜まっているのを読む。講演の講師派遣会社から、我が社の講師として登録させてほしいというのが二件もあった。最近、特にマスコミに顔出ししているわけでもないのだが、どういう偶然なのだろうか。

講演と言えば昨日、初日幕開け寸前に電話が入り、来年一月、辻真先先生の講演の相手(聞き役)をやってくれないかと依頼が来た。西手新九郎(シンクロニシティ)である。辻先生とは今日(舞台を観に来てくださるので)お会いします、と言ったら向こうもビックリしていた。結局、辻先生とは舞台の話ばかりでそのことは打ち合わせられなかったけれど。

劇場入り。夕食代わりにコンビニのネギトロ巻き二本、バナナ一本。お茶をがぶがぶ。非常食並。とにかく暑い。今回の公演、いろんなところから花を送っていただき、花篭で階段の部分など埋め尽くされてしまっているが、劇中劇の雰囲気には合っていると思う。制作会社、出演番組などからのお花もあり、感謝。

二日目公演、初日には及ばないがまずまずの入り。今回、稽古などが大変に手間取り、告知がロクに出来なかったのだが、にも関わらず客入りがいいのはどこで口コミがかかっているのか?

「二日目芝居」「魔の二日目」と言われる日だが、言葉にたがわずカミがあったり、セリフのトビがあったりいろいろ。にも関わらず、不思議なことに受けは前日以上。ルナのキャストの芝居だったらもう、受けたらそれでヨシ、なのだが、今回のキャストには真面目な演劇人が多く、お客の温かさに助けられたことを恥と思う人もいる。一口に役者と言っても、千差万別。そこが面白い。

『リビジョン』に出演した飯島倬ちゃん来てくれて、待ち合わせが昨日、打ちあげやったばかりの新雪園。岩田くん、松ちゃんと四人でいろいろ話す。ちょっと辛口の批評(これは倬ちゃんのいつものこと)も貰う。12時過ぎまで、紹興酒ちょっと過ごす。他にはギョウザ、豆苗炒め、パイコー唐揚げなど。

12日
朝9時に起きだすが体調極めて悪し。と、言ってもこれは気圧のせいだろう。雨の予感紛々。と思ったら小雨降ってきた。劇場入り、花が劇場内に詰め込まれているので、南国のような香り充満。

昨日、最後のシーンについて否定的なアンケートがあり、それを読んだ某女優さんが少し気にしている、と松ちゃんから聞いた。急いでゆうべメールして、大丈夫、あそこを評価しているアンケートもたくさんあるし、何より私が気に入っているシーンだから! とはげました。今朝になって、「それを聞いて本当にうれしいです!」と返事があり、元気になった模様。これは本来、演出家というよりプロデューサーの仕事だろう。私は今回は本当にプロデューサー的演出家になっている。平山亨先生からの教えの路線に行っているということか?

2時、家を出て、当共役で用事を済ませて小田急線で下北沢へ。新宿へ行く中央線のホームで、向側のホームにいた30代の美人女性が、私に手を振って「ファンですー!」と叫ぶ。叫び返すわけにもいかず手を振り返したが、そこに電車が来て乗り込む。窓から向いのホームを見たら、まだニコニコと手を振っているので、私も手を振る。同じハコの乗客からは何と見えたか。仲のいい夫婦の(と、いうには年齢が離れてはいるが、まあ歳の差婚も流行りなのでアリか)ノロけ場面と見えてしまったか、とちょっとガラになくテレる。

昨日の舞台で、舞台上に置いた白ワクのヒトガタがめくれてしまうというアクシデントがあった。小道具製作の野村さんに来てもらい、対応策考える。「裏地に重しとすべり止めとして紙やすりを貼りましょう」と提案され、そんなもんで大丈夫かと思ったが、やってみると見事にめくれなくなる。プロの仕事。

公演、三回目。やや迷いが出てくる時期。これは全開のリビジョンの時の記録を見ても全く同じ。次回はここをどうフォローするかがテーマになる。

本日、知人でCMディレクターのOさんが率いる、『目劇者』グループが団体で来場してくれて、客席がほぼ埋まったのはうれしかった。前に高橋明日香ちゃんが出演した『紫陽花と、うん!いたこっこ』の演出のYさんもいらっしゃってくれて、「どうでしたか」と終演後感想を訊ねると「ミステリ劇は内容を把握するのが難しくて……(笑)」とのこと。うむ、そこも課題だな、これからの。

しかし、アンケートには「ミステリというには単純すぎる」という意見と「ちょっと難しい」という意見が同じだけある(もちろん「面白かった」という意見が一番多いのが救いだが)。「テンポが緩い」という意見と「ジェットコースターみたいで目が回る」という意見が同ステージのアンケートである。百人百色、アンケートというのはあくまで参考。否定と肯定の数で肯定的意見が上回っていたら(もちろん、アンケートを出すという行為がそもそも肯定に傾いているので調整が必要だが)、後は己が信ずるところを行くしかないのだ。

終演後、小道具として使用した劇中劇ポスターを実費で販売しているのだが好評。コスチューム・プレイの楽しさを出したものだけに、この衣装は揃えてよかったと思う。公演とかイベントで物販を軽んずる者は痛い目にあう。昔、伯父のプロダクションがアメリカン・ダンス・マシーン(NYのダンスチーム)の日本公演のプロデュースに関わったとき、予定外の支出(演者が袖幕を突然“必要だ”と言い出したりとか、“灯体をもうひとつ入れろ”、と要求するたびにウン万かかる)を支えたのが物販の売上であった。オノプロのマネージャーを30年やっていたMさんが「唐沢さん、物販を馬鹿にするのは素人です」としみじみ言っていたものだ。

終演後、Oさんのお宅(下北沢にある)に役者一同お邪魔させていただき、ギョウザパーティ。お宅の近くまで歩いていき、「多分ここだね」と私が言うと、女優陣が「何でわかるんです?」「だってほら、ニンニクの匂いがただよってくる」「あ、そう言えば」「イタリアンかと思った」と。Oさん曰く、普通の店売りギョウザの数倍はニンニクが効いていると。奥様はこのニンニクの匂いがイヤで、ギョウザパーティの日は外泊するのだそうだ(笑)。

ギョウザは北海道から取り寄せたという特性の皮。目劇者メンバーが十人ほど、せっせとギョウザを作っては焼いている。ほとんどわんこギョウザの態で、食った端から焼き上がったものが出る。それをまた、役者たち次から次へとぺろりと平らげ、さしものOさんもその健啖に感心していた。

役者たちは明日が早い(明日から昼夜)なので帰るが、私は今日来てくださった方々(『アイニク』の出演者さんたちもいた)のお相手。演劇、テレビ、落語と話題尽きず、2時過ぎまで。帰宅しようとしたら大雨。タクシーなんとかつかまえて帰る。

13日
13日金曜、仏滅という凄い日。昨夜の雨が今日も続くのではという予想もあったが、幸い、明け方には晴れた。しかし晴れるとなると炎暑である。今回の芝居の一番大変だったのは演出よりも、場内の温度設定ではなかったかと思う。低めに設定すると1時間45分の芝居の後半では夏服では寒いというお客様が出てくる、なればと上げると今度はロコツに暑がるお客様が出てくる……。

昨日買っておいた台湾マンゴーとコーヒーで朝食代わり。何年か前、マンゴー飽食ツアーで台南旅行をしたことを思い出す。今回の芝居終ったら台南にまた行ってみたいなあ。

昨日、人手が足りないままに私が受付をやったら妙にウケたので(笑)、本日も受付に立つ(コミケ感覚があるので作・演出・受付という事態が気にならない)。劇場を舞台にした芝居なので、思えばこれも演出の一環である。

本日昼夜、そろそろ中ダルでお客様の数が減るかと思っていたが、昨日あたりから当日券ありますか、というお客様が増加しだした。後で本多慎一郎さんに訊いたら、今日、下北沢でマチネをやっていたのが私のところだけだったそうで、それでか、と膝を叩く。世の演劇ファンには、下北沢に来たら面白い芝居が何かかにかやっているだろう、と、次善にチェックせずに(しないのを楽しみに)来る方がいるのだ。それで、アンケートに「まったくの飛び込みでしたが面白かったです」と書いていらした中年のご夫妻、それから「病気で何年も外出できず、本当に久しぶりの観劇でした」と書いていた女性がいたのだった。そして、後者の彼女は松山幸次の演技がお気に入りになったらしく、一旦帰りかけたのを引き返し、一緒に写真を写して帰っていかれた。まこと芝居は一期一会。

役者の疲労、演出席で観ていてもわかるほどだが、不思議にそういう時の芝居は非常にいい感じでお客にハマる。元気いっぱいのときの上滑り感が緩和されるというか。疲れでポカミスが出るのは困るが、疲れてちょっと演技がユルくなったあたりがリラックス感が劇場内にただようのかもしれない。

とまれ、本日、ナカ日。疲れ解消のためにみんなに焼肉をオゴる。劇場支配人役の鳥越夕幾子ちゃんが、やっと緊張がほぐれた、という感じで、コンビの神谷隆くんといろいろ話していた。彼女には一番重圧をかけていたので、その様子を見てホッとする。

14日
朝は牛乳のみ。もう公演関係で家でやる仕事はほとんど残っていないはずなのに、まだ雑用いろいろ。毎日の売上計算、必要経費の計算などが主な仕事。

ぶんがく社Sさんから電話、『立川流騒動記』、取次からそろそろ増刷を……とせっつかれているらしい。返本率がまだ読めないのでそれまでストップしているとのこと。とはいえ、時間の問題だろう。ちょっと安堵。自分で書いた本よりも、プロデュースした本の方が気になるのは面白い心理。

ベギから予約フォームからの予約メール届く。これと、各役者さんたちの予約合わせると、今日明日はほぼ満席が決定。と、なると今度はそれ以降の予約、及び当日のお客様への対応が一大事となる。やはりこれは私が受付に立たざるを得ないだろう。スタッフが揃っておらぬ新興劇団の宿痾なれども、全て手づくり、楽しくもなくもない。

役者に余裕が出てきた分、観客にも余裕が出てきたようで、多彩な意見がアンケートに増えてきた。「松山幸次さんの“食べ芸”が見事です」というものあり、アメリカンドッグやカップラーメンを実にうまそうに平らげるのである。

ダブルキャストの島敏光さんと久保広宣の出演順で、ドキリとするポカミスか? というものがあってまた心臓痛むが、こっちのカン違いとわかり安堵。

久しぶりに直帰。家で雑用片づける。能登のTさんからお中元で活きサザエが届いている。やっと口に出来た。焼き網でそのまま数滴醤油を足らしてつぼ焼きにする。滋味が疲れた身体に染み渡る。能登の地酒『竹葉』が欲しいところだが、そこは妥協で発泡酒。永遠に続くかと思われた公演も、気がつけばあと二日。

15日
日曜日、一回公演。入りが今回の公演で最高、満員札止め。酷暑と言える暑さの中、ありがたいこと。とはいえ、今回の公演は飛び込みのお客様多く、その対応で、補助席をどうするか、頭を悩ます。

今回のキャスティング、私はこれだけで燃え尽きたようなものだが、全員、キャラが立っている。容疑者だからあたりまえなのだが、これは凄い。あまり全員が立つと演技プランがてんでんばらばらになるという欠点が露呈するが、演技マニアである私にはこれが面白い(これは演出者としては次回から改めなくてはならないポイントだ。今回はミステリだから許される、という気分でキャスティングに淫してしまった)。暁雅火くんのフェルジナンドは何度観ても爆笑だし、高橋明日香ちゃんの天才的コメディエンヌぶり、神谷隆くんの出てきただけで客の視線を全部持っていける存在感と、どれも素晴らしい。

そしてラストの綾乃彩ちゃんと小林直人くんの無言の演技。これ、演技をつけてから、BGMを探し回り(ここだけは水谷さんの曲とはイメージが異った)、版権切れクラシック音源から30曲くらいを徹底して聞きまくって、19世紀に作曲されたイギリスの管弦楽からピッタリなのを見つけた。この曲のラスト1分をBGMにすると、19世紀からこの場面に当てるために待っていたかというくらい、盛り上がりもラストも完全にシンクロ。ときどき、天はこういう風に哀れな演出家に味方してくれるのである。

終演後、まだ早かったが久しぶりにスタッフの唯さんや島さんなどと陣太鼓(焼鳥屋)。総勢10人ほどになる。『おじさん図鑑』のなかむらるみさんと編集者さん来てくれて、打ちあげにも参加。ワイワイにぎやかなこと。この“芝居と飲みの日々”もあと一日。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa