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2012年2月10日投稿

一番漫才の才能はあったかも……【訃報 太平シロー】

小野栄一の弟子に東野しろうという男がいた。もちろんトウシロウの
もじりだが、大きな顔にギョロ目のその顔が大平(太平)シローに似ている
せいもあった。80年代末の当時、彼の名が全国区だったのである。
で、ほとんど同じ時期に失踪事件を起こしたりして、
ヘンなところまで似るもんだ、と、その迷惑の後始末をしながら感心(?)
したものである。

意外に思えるが、島田紳助と同い年(1956年生まれ)。
大平サブローとコンビを組むが、『MANZAIブーム』の初期メインメンバー
(やすきよ、ツービート、B&B、紳助竜介、のりおよしお、ザ・ぼんち等)
の中には入っていなかったのは、漫才は面白いがテレビ向きにはやや地味、と
思われたからかもしれない。

とにかく、上記メンバーより、ワンテンポ遅れてのブレイクであった。
それほどの遅れではなく、『オレたちひょうきん族』のレギュラーの座にも
何とか後半以降つくことが出来たのであったが、しかし、このタッチの
差で先頭集団に入れず、第二集団のトップという位置であったということが
彼等にはずっとイメージとしてつきまとう。
「ブームを作った」

「ブームに乗った」
では、インパクトが違うのである。

彼等の持ちネタの最大のものが先行で売れていたコンビの物真似であった
というのも、“ブームの余波で売れたコンビ”というイメージを抱かせて
ソンをしていた。実力はオリガミつきであったのだ。なにしろ、あの紳助が
「漫才ではやつらにかなわん」
と認めていた程だったのだから。実は案外持ちネタの少ない紳竜、パターン
の少ないツービートやB&Bに比べ、サブローシローは着実に引き出しを
増やしていき、クロウト筋の受けはトップと言ってよかった。

しかし、彼等は後発であった分、ブームという“お祭り”を、一歩引いた
ところから見る立場にあった。お祭りとは、常識を逸脱して馬鹿、もっと
言えば“狂気”の世界に身を置くことである。後にやたら理論的なことを
言い出す紳助も、いまや国際的文化人となったたけしも、当時は狂気の
ただ中に飛び込んで、その中心でとにかくクルクル回転していた。
そこにはただ、時代と寝ている者の特権の熱さがあった。

サブローシローに、そのような熱さは感じられなかった。
いや、ブーム自体にもうそのような熱がなかった、と言っていい。
したがって、彼らのステージにはどこかに“怜悧さ”が感じられた。
評価はされる。だが、“熱狂的にノる”にはネックがある。

勉強家のコンビだった。サブシロどちらもややマニアックに、自分の
ネタをビデオで見、受け方などをチェックし、サブローに至っては奥さんと
毎晩ディスカッションしていたという。
その甲斐あって、彼等は紳竜たちがスローダウンしてきたのと入れ替わり
にブレイクした。しかし、そこで彼らの知性、理性がブレーキとなった。
狂気に、馬鹿になりきることが出来なかったのだ。

シローの物真似は馬鹿っぽかったが、物真似というのは実はかなり高度な
批評芸である。それに気づいて、物真似のプロでありながら、自ら芸の完成度
を落としてナンセンスに昇華させたのが同じく後期からのブーム参入組である
片岡鶴太郎である。シローらは理性を捨てることを選ばず、理性を求めてくれる
地として、東京への進出を望み、吉本興業と対立した。

紳助は後に、成功者としての立場から
「彼等は自分たちの人気にオーバーヒートしてしまったんです」
と分析している。サブローとのコンビ別れの原因が、シローのツッコミの
きつさにサブローが耐えかねて、と言われているのは、彼の“勉強ぶり”が、
別の意味での“狂気”に足を踏み入れてしまったせいだろう。独立の失敗を経て、
90年代に入り、ついにそれはブレイクした。辞書的翻訳の“壊れる”という
意味において。

突然選挙に出馬したり、失踪事件を起こしたりと、当時のシローの精神状態
は本当にあぶなく、世間に再び現れたのを報じたスポーツ新聞の写真の
うつろな眼差しには、“あ、人格が壊れた”と思わせるものがあった。
才能はあったが、ブレイク(これは人気爆発、という意味)への適性が
なかった者の悲劇、である。

彼らにはかなわない、と素直に認めた紳助は、その後もシローの才能を惜しみ、
自分の番組の構成作家などに起用していたという。

9日死去、55歳。死因はあきらかにされていない。
燃焼し尽くした上での死と信じ、早すぎる昇天になぐさめを見いだす
しかない。

http://bit.ly/wo2miu
↑ぐんぐん人気上昇中の86年放映のもの。
スマートな芸でダアダアであってもイヤミがなく、本当に好感が持てた
コンビだった。一寸先は闇というが、まったく人気商売というのは怖い。
すでにこの時点で
「オレは考えてるで。引きこもりしとるからな」
とか、ちょっと気になることを言っているが。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa