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2011年12月24日投稿

美しきキャラクターたち 【追悼 荒木伸吾】

札幌時代運営していたアニメファンサークルに、女子高生が入会を
希望してきた。プロフィールを見たら、“好きなアニメ”の欄に
当時の新番組『ダンガードA』とならんで、『少年徳川家康』
『新巨人の星』などの名が並んでおり、どうも脈絡がないな、
と思っていたら、誰かがその欄をのぞき込んで、
「わかった、この子、荒木伸吾のファンなんだよ!」
と言って、疑問が氷解したことがあった。上記作品は全て
荒木伸吾がキャラデザインを担当している。1977年当時、
すでにキャラデザインで見るアニメを選ぶディープなマニア女子高生が
存在していたということである。

われわれにとって、キャラクター・デザイナー荒木伸吾の名を
記憶したのは1973年の『バビル2世』においてであり、
そして1975年の『UFOロボ・グレンダイザー』でその
流麗なペンのタッチは脳裏に深く刻まれた。現在の美少女アニメキャラ
の原点とも言うべきマリア(主人公・デュークフリードの妹)が
名高いが、私にとってはゲストキャラの描写が際立って印象的で
あり、中でも76年12月放映の63話『雪に消えた少女キリカ』
に登場したコマンダー・キリカの美しさは、一話のみのゲストキャラ
とは思えないセンセーションを、決して大げさではなく見ていた
ファンたちに巻き起こした。荒木伸吾=美形キャラ、という
公式が完成したのはこの時期であり、それは荒木自身のプロダクション
の女性アニメーターである姫野美智の影響が大きい。
とはいえ、それを男の子向けのアニメの中で輝く存在に仕上げたのは
やはり荒木の才能だろう。

ところでこの『グレンダイザー』のメインキャラデザイナーは
小松原一男なのだが、後半、荒木伸吾にバトンタッチする。前半では
(前々作の主人公でありながら)三枚目的役割に落とされてしまった
兜甲児が、荒木調の作画で美少年キャラとなり、しかも設定上、
年上のデュークフリードに対して徹底した弟キャラで接する。
ちょうど時代は竹宮惠子(当時恵子)が『風と樹の詩』を連載開始
したころ。それまでロボットものは男の子、魔法少女は女の子
と区分分けされていたアニメの世界での視聴者混淆が起こって、
女性たちがフリードこと宇門大介と兜甲児をカップリングさせて
二次創作作品を描くというムーブメントが起こり、これが後の
やおい、BL文化に発展していく。耽美主義傾向が強かった“カゼキ”
(当時のファンは『風と樹の詩』のことをこう呼んだ)系ではなく
後のBLの、あっけらかんとした男子同性愛の世界が主流となった
のは、ロボットアニメという単純明快な世界をその出発点にした
ためではないかと思っている。

荒木氏はまさかそんなムーブメントが自分の作画から起こるとは
想像もしていなかったろう。しかし、やがて氏の代表作となる
作品は、自らが(意識しなかったとはいえ)作り出したBLブーム
の上に乗って女性たちに圧倒的な人気を誇ることになる。
1986年開始のアニメ『聖闘士星矢』である。車田正美原作の
少年マンガっぽいキャラを、見事なアニメ美形キャラに描きかえた
その作品は、ちょうどコミックマーケットの規模が大きく拡大した
時期と合致したこともあり、二次創作系同人誌の人気を一気に
底上げした。荒木氏の本領は決して美形キャラだけではなく、
大胆な画面構成や動きにもあるのだが、しかし、荒木伸吾がアニメ界
になした最も大きな貢献は、このキャラの魅力で凄まじい数の
ファン(主に女性)をアニメに引き込んだことだろう。

もともとは貸本マンガ畑の人である。
同じ貸本マンガ家出身のビッグ錠の作品に、昭和30年代、若い
作家たちが喫茶店にたむろして、人気貸本作家たちのうわさ話を
するというシーンがあり、そこで
「荒木伸吾、うまいなあ」
と個人名が出てきて、驚いたことがある。貸本出身ということ
をそこで初めて知ったということもあるが、貸本劇画のラフなタッチ
からは、あの美形キャラ群は想像できなかったからだ。

荒木が貸本でデビューした当時、すでに貸本業界は雑誌マンガに
押され、衰退期にあった。荒木も貸本では食っていけず、先に
転職していた真崎守の誘いで虫プロに入社、“天職”を得る。
とはいえ、完全実力主義と、厳しい製作体制の貸本業界での経験
は、同じく厳しい製作体制であるアニメ業界の中にあって、
大きく役に立ったことと考えられる。

日本のアニメというのは、海外の、ディズニーを基本とする
フルアニメ文化とも、ハンナ・バーベラを代表とするカートゥーン
文化とも異る、キャラクターと声優人気を中心とする、独自の
発達と開花を遂げた特殊な文化である。その基本を作ったのが
手塚治虫であり、その文化のワク組みを完成させ、さらに前に
推し進めた一人が荒木伸吾と言えるだろう。

まだビデオデッキが普及する以前、私たちアニメファンは、
ブラウン管(この言葉もそろそろ通じなくなってきている)の
前にカメラをセットし、アニメのいいシーンやキャラクターを
撮影しようと頑張っていた。『グレンダイザー』や『ダンガードA』
の荒木作画の回では、あきらかに“ここがシャッターチャンス”
とばかりに、キャラクターの大写しの止め絵シーンが入っていた
ものである。何がこの作品の“売り”かを、制作者サイドもよく
わかっていたということだろう。

12月1日、急性循環器不全で死去、72歳。
仕事盛りの、もっとも脂の乗っていた時期の仕事をリアルタイム
で見られたことを感謝したい。
R.I.P。

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