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2011年11月28日投稿

屹立していた男 【訃報 西本幸雄】

野球の監督という同義語で“ベンチ”(長椅子)と言う。ベンチの采配が、などと言う。
当然のことながら、監督は常に試合中控えのベンチに座っているからである。
ところがこの西本は、近鉄の監督時代、ベンチに座っていることなく、
常にグラウンドにどしっ、という感じで腕組みをし、立っていた。
屹立、という言葉が似合っていた。そんなイメージである。
野球場の土に根が生えたという感じであった。
守護神みたいな姿だった。

広岡のような理論派でなく、金田のようなムードメーカーでなく、
森のような総合経営者タイプでなく、仰木のような知将でなく、
王のような求道的聖者でなく、長嶋のようなトリックスターでもない。
あえて言うなら大地に生きる開墾者、というイメージだ。
時間をかけ、地道にチームを作り上げ、ヒーローを育てるのではなく
チーム全体をうたれづよくしぶとい体質に作り上げていった。
時には(いや、しょっちゅう)拳を振り上げ、怒鳴りつけ、
選手を“勝てる体質”にしていった。
http://www.kcc.zaq.ne.jp/kids_clinic/coffee_katoku.html
↑上記サイトでは、川上哲治や水原茂、三原脩といった伝説の名監督
とも比較した上で、西本こそ日本一の野球監督、という評価をしている。

非運の監督と言われ、リーグ優勝はしてもついに日本一になれなかったが、
当時のスポーツ番組もスポーツ新聞も、こぞって西本監督のファンという
感じで、その逸優勝を残念がっていた。ある意味、突出するヒーローより
和と団結を尊ぶ日本人の気質に最も似合っていた監督だったろう。

だが、スポーツの世界では、並の人間の努力も団結も、たった一人で
鼻歌でも歌うように、軽々とその頭の上を飛び越すスーパーヒーローという
存在がいて、そしてそういう存在を何よりも必要とする。
彼らは叱責されるのを好まず、常に褒められ、注目され、特別扱いされる
ことを望み、そしてそうされた時に実際、最も凄い記録をホイホイと出す。
人種が違うのである。

西本は、そういうスーパーヒーローではなかった。理解できなかったろうし、
事実育てられなかった。そこが猛将・西本幸雄の弱点だった。
西本自身は決して凡人でない。だが、天才でもなかった。
その能力は一般人の裾野をどこまでも拡大していったもので、常識を
飛び超えることがなかった。

しかし、だからこそ、西本は阪急や近鉄のような弱小球団を優勝に導く
チームにまで育てあげられたのだと思う。弱小、すなわちスーパーヒーロー
のいない凡人たちのチームを強くしてくれる、たたき上げの技術者だった
のだ。経済成長期の日本において、長嶋のように仰ぎ見る存在でなく、
自分たちと同じ仲間の頑張りに、庶民は拍手した。

本当の意味での、「日本人」のヒーロー、それが西本だったような気がする。
91歳。大往生であろう。この大往生も西本監督にはふさわしい。
RIP。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa