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2011年10月16日投稿

読んで候 【訃報 柳ジョージ】

しわがれ声の巻き舌で歌う歌い方は一度聞いたら忘れられない。
忘れられないばかりでなく、彼以降、そういう歌い方をすれば大人の
ロックに聞こえる、と思ってコピーしている歌手との違いもはっきり
わかる筈だ。横浜出身者の特長かもしれない、いい感じの気取りが身に
ついたステージ姿だった。

実はロックの世界ではかなりえらい人なのだが、そう見えなかったのは、
ウィキペディアにもある通り自分を「実際以上に大きく見せない」性格の
持ち主であったことの他に、『ヴィナス戦記』や『ボトムズ』といった
アニメに曲を提供していたこともあるだろう。殊に第一次世代オタクに
とり、70年代、ロックというのはオタクと常に(そんなつもりはお互い
なかったのに)対立させて語られる存在であった。だから、ロックの世界で
非常にエライとされていた柳ジョージが、何のてらいもなく『鉄のララバイ』
などを歌う姿に、ちょっと感動したりしていたのである。

私はと言えば、カラオケで『酔って候』が十八番である。
大麻をやって逮捕され、参加していたグループサウンズ『ザ・ゴールデン・
カップス』も解散。時間を持て余して歴史小説を読みあさっていたとき、
司馬遼太郎のファンになったそうだ。ご多分に漏れず坂本龍馬の大ファン
だったというが、何故か龍馬にとっては宿敵的存在であった山内容堂に
あこがれ、『酔って候』を作曲、司馬の家に押しかけて発売の許可をもらった
という。なぜか龍馬ファンを公言する人間にはあまり大した人物がいない、
というのが通り相場だが、彼の場合、そこに一ひねりあるところで
救われていたのかもしれない。

初めて耳にしたのは『祭りばやしが聞こえる』の主題歌だったか。
ドラマ主題歌、CMソングといった分野にも気軽に参加し、その代表曲が
耳になじんでいるところも親しみやすかった。そして、その楽曲の質の高さ
が、なまなかでなかった。70年代、彼の曲を耳にしながら青春時代を
送れたことは幸せだったのだ、と今にして思う。

『酔って候』を曲にしたほど、酒好きということでは有名だった。
体の調子を崩しても、ウイスキーを芋焼酎に変えたりしながらなお
飲み続けたらしい。
「鯨海酔公 無頼酒 鯨海酔公 噂の容堂」
と自分で歌った容堂を気取ったわけでもないだろうが、 
糖尿病の悪化で63歳の年齢で死去というのは、容堂と違い無頼という
イメージはない人間だけに、何とも惜しいと思う。70代、80代の
ロックを歌って欲しかった。
R.I.P.

Copyright 2006 Shunichi Karasawa