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2011年9月7日投稿

ペギラと黒雲、ヒゲ

9月5日に渋谷シネクイントで行われた『総天然色ウルトラQ』発売記念試写会
に、招待を受け行ってきた。残念ながら万城目淳役の佐原健二氏は欠席
だったが、一平役の西条康彦氏、ユリちゃん役の桜井浩子さんのトークも
あり、『クモ男爵』『東京氷河期』の2本を鑑賞。

最新技術を使って2年の歳月をかけたというカラー化は、人間の肌色が
ちょっと人工ぽかったが、背景や怪獣などは極めて自然で違和感なく、
『クモ男爵』冒頭の灯台内部のシーンで、白黒だとちょっとわかりにくい、
窓に灯が漏れないための白ペンキが無造作に塗られているといった細部まで
よくわかって、楽しかった。町並みなど、昭和40年代研究にも貴重な
資料となることだろう。

……ところで、帰り道、と学会の藤倉珊さんや開田裕治さんと話題になった
のが、「ペギラの黒雲、あれはなんなんだろうね」ということだった。45年前
に初めて見た翌日、友人間で話題になったのを覚えているが、45年後も
同じ話で盛り上がるとは、オタクというのは進歩のないものである(だから
楽しいのだが)。ペギラは飛行時、全身を黒雲で覆って渦を巻くようにして
高速飛行するのだが、ペギラに、ジェット噴射で空を飛ぶような能力が備わって
いるとは考えられず、あの黒雲はどこから出るのか、とみんな不思議がって
いたのだ。「觔斗雲みたいなペギラの乗り物じゃないのか」という説から、
「あれはバキューモン(『帰ってきたウルトラマン』に登場する怪獣)の
ような暗黒物質で出来ている生物で、ペギラはそれに操られているだけ、
いや、その生物の器官の一部に過ぎないのでは」などという話が出て、
こういうヨタみたいな話のやりとりがあるから怪獣映画というのは楽しい
のだな、という感を強くした。

SF的な設定はいくらでも考えられるが、文化的な文脈で見るとどうか。
ペギラは初めて特集記事などで紹介されたときから”ペンギンが突然変異
した怪獣“という設定があったようだが(ちなみにゴメスは”オケラが突然
変異した“とされていた)、どう見ても鳥類がモチーフとは考えられない
デザインである(初期デザインはもっと鳥ぽかったのを、最終的に成田亨氏が
修正)。退化したヒレみたいな翼が両腕についているのが最大の形状上
での特長だが、もうひとつ、アップになると、怪獣らしからぬ(?)
ヒゲが生えているのがわかる、というのも、あまり他の怪獣に見られぬ
特長と言える。口の両端と、それからアゴにも、しょぼしょぼとあまり
立派でないヒゲが生えている。これは造形にあたった高山良策氏が植毛ぬい
ぐるみの製造経験が長かったその名残……なのだろうか?

それはともかく、このヒゲと黒雲との関係で、ちょっと思いついたことが
あった。黒雲に乗って天空をかける存在、というと何があるか。
言うまでもなく、日本の伝説上の、風神、雷神であろう。

ことに雷神と黒雲はセットになっているようで、日本各地に、黒雲から足を
踏み外した雷神が墜ちてきた、という民話・伝承が残っている。天に帰る
ときもまた、黒雲を呼び、それに乗って空へ上っていく。
雷神は日本の伝説の中では多く祟り神にも類えられており、藤原時平によって
讒言され九州で斃死した菅原道真は雷神となり宮中に黒雲となって現われ、
自分を陥れたものたちを雷電で撃ち殺したと伝えられる。

ペギラの、あの黒雲を呼んで天に帰るというイメージ(ペギラは2回、
ウルトラQに登場するが、どちらも黒雲に包まれて逃げ去っている)は、
あきらかに風神雷神からのインスパイアだろう。

それを考えると(と、またヨタな話に戻るが)、ペギラの顔の造形、
つまり一本角、牙、髭は、鬼神の顔の造形をモチーフにしたと言っても
いいのではないかと思う。通説ではペギラの顔はトドやアザラシなどの海棲
哺乳類をモチーフにしたということになっているが、海棲哺乳類で角を持つ
ものはいないし、口ひげはあっても顎ひげはない。いや、カンぐれば、
雷神となった道真(天神様)にあやかってヒゲを生やしたのかも……(笑)。

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