イベント
2011年6月6日投稿
第4回ルナティック演劇祭・第一次審査終了!
規模を大きくし、5月10日から開催されていたルナティック演劇祭
http://www.aalunatic.com/news/20110214001.html
の一次審査が終了し、参加10劇団のうちから
『劇団カツコ』
『東京バンビ』
『Please Mr.Maverick』
『すこやかクラブ』
の4劇団が決勝ラウンドに残ることになりました。集客票+審査員票の
結果、一位のカツコと二位のバンビは一票差、というきわどい差でした。
また、『すこやかクラブ』は審査員の支持が高く、四位に急浮上しての
決勝進出でした。
『劇団カツコ』の『ヘビーローター』は寺山修司や唐十郎の流れを現代に
ほぼ忠実に再現している舞台でした。高い抽象性、風刺性。アンダー
グラウンド・カルチャーの匂いも強烈に、人間と社会の軋轢、摩擦を
これでもかとえぐり出す作風は、私のような世代の者にとっては懐しい
60年代の雰囲気をただよわせていました。2010年代において、あえて
この作風を保つこと自体が、強烈なテーマ性と言えるかもしれません。
一方『東京バンビ』の『男子と女子とときどき鹿と』はもう少し近い80
年代風。修学旅行の晩の男子女子それぞれのコイバナ、という設定の上に
どれだけ意味のないギャグを盛り込むかという、笑いを完全に主体においた
もので、その笑いが散発的にならず、次第にシュールなものへとのぼりつめて
いくというあたりの完成度の高さが高評価につながりました。この上位
二劇団を見ると、演劇というものがさまざまな遺産を次代に残しながら
続いてきたものなのだな、ということがよくわかります。
『Please Mr.Maverick』の『僕だけの楽園をお願い博士!』はアニメ、
特撮ヒーローものといったサブカルチャーからのアイコンを躊躇なく借り
入れ、扱うテーマもエコであったり萌えであったりという、最も現代ぽい
劇団と言えるでしょう。それだけだといかにもありがちな軽いものになって
しまうところを、演技力を持った役者同士のやりとりで“芝居”を観る楽しさ
を充分に味あわせてくれるあたり、主催者もただ自分の趣味に酔っている
だけではないクセモノ感をただよわせていました。
そして大穴だった女性三人のコンテンポラリー・ダンスユニット『すこやか
クラブ』。セリフがほとんどなく、自由律のダンス主体に話を進めていく
『錯乱ファクター』は、申し訳ありませんが全くノーマークだった芝居でし
たが、肉体の動きという演劇の基本を、基礎をしっかりマスターした演技者
が体力の限界まで精根詰めて演じることの魅力を十二分に見せてくれました。
もうひとつ言えば、毎回、この演劇祭では取り入れる小道具をテーマとして
提示させていただいています(今回は『本日の主役』と書かれたタスキ)。
それを最もうまく取り入れていたのもこの劇団でした。台風の目として、
どう決勝戦にからんでくるか、興味津々です。
今回は、選に漏れた劇団にも興味深いところが数多くありました。
二回目の挑戦になった『子犬会議』の『バッス!』は、大島渚の『絞死刑』
を彷彿とさせる模擬裁判がテーマで、小劇場演劇としての脚本の完成度は
最高、ギャグも豊富でそれぞれの演者のキャラクターも立っていました。
残念ながら、演出がその脚本の魅力を観客に完全に伝えるまでに至って
いなかったのが惜しいです。
『劇団両面HERO』の『リカちゃん人形殺人事件(笑)』は、テーマが
斬新で錯綜していた話がしだいに収斂していく過程がスリリングでした。
ただ、話に冗長な部分がなきにしもあらず。前半を刈り込んで、中盤から
の盛り上がりにストレートに入っていけばもっと点数が上がったのでは
ないでしょうか。
『演劇集団 太陽の大地』の『お吉シャングリラ』は、幕末という時代に
女性が女性らしく生きようとした典型として唐人お吉を選び、その生涯
をストレートに描こうとした、小劇場演劇としてはむしろ異色作です。
「参加劇団中、志の高さはナンバーワン」という評価もありました。ただ、
やはり演劇的な工夫、時間や空間の処理にもう少し意識を向けると、
テーマがより際立つと思いました。
『突スタイル』は二人だけのユニット。コント的になりがちな形式を、
あくまで演劇として見せる『o ppnism〜extra〜』は、演者の技術として
は最も高く完成されていると高い評価がなされていました。ただ、構成
にやや、コンクール向きではない単調さが見られたところで点を稼ぎ損ね
たという感じがします。今後、また挑戦が望まれるユニットです。
京都から参戦してきた『マカロニフィンガーズ』は、男性二人女性一人の
ユニットで、男性二人が何人もの役を次々演じわける(わけていないことも
多い)というユニークな形式の演劇でした。『桃色マカロニウェスタン』
というタイトルにほとんど意味はなく、テーマに近親相姦や不倫など、
かなりアンモラルなものを含んでおり、それを人形劇仕立てで見せるなど
工夫のあとが見られました。無駄な部分のかなり多い構成が気になりました
が、ここはこの線で洗練させていくと、案外、化けるかも、という気が
しています。
今回の演劇祭は女性の活躍が目立ちました。『劇団我ガママ』も女性二人
のユニット。『妄想ハルリケ〜ン』のタイトル通り、恋に浮かれる女の子
の妄想を、どんどん発展させていき、あっちに飛びこっちに飛ぶストーリィ
は、追い掛けていくだけでやっと。完成度はイマイチというよりイマサン
ぐらいだったのですが、見終ったあと、審査員たちから「あそこまで好き
勝手が出来たら気分いいだろうなあ」というセンボウの声(?)があがった、
好印象という点ではダントツのユニットでした。
「つまらない芝居というものはない」
とは、自らも劇団を率いていた声優の古川登志夫さんの言葉です。
今回、それを体で実感した思いです。方向性は無限にある。中には時代に
合わなかったり、理想に手が届いていないものもあるでしょう。しかし、
何かを表現しようというその姿勢は、常に刺激的で面白い。
参加してくれた全ての劇団に、いい舞台を見せてもらった感謝を捧げます。
ただ、一言申し添えれば、最近の劇団は、観客の理解度に期待が持てない
せいか、妙に説明的な部分が多い芝居をやりがちであることが気になり
ました。今回参加の劇団にも、もっと刈り込んで、上演時間をもう10分
短く、コンパクトにまとめればずっと評価が上がったのに、というものが
いくつかありました。あるストーリィを、振り出しから上がりまで、
全部演じようとする。小劇場演劇というのは大河ドラマではありません。
一本の棒を端から端まで見せるのではなく、ボキボキとへし折った、
その一片から全体を想像させ、セットや小道具に凝った大劇場芝居の
何十倍もの世界観を観客の頭の中に想像させるのが小劇場の芝居です。
省略と抜粋、この技術を取り入れて、小さい舞台ならではの魅力を現出
していただけたら、というのが、全10ステージを見渡しての、審査員長
としての感想でした。
参加劇団のみなさま、熱き戦い、お疲れさまでした。
では6月28日からの、上位4劇団のみなさんの奮闘を祈ります!