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2011年3月5日投稿
見いだされた男 【訃報 ケネス・マース】
ボリス・カーロフが最後にフランケンシュタインの怪物を演じた
『フランケンシュタイン復活』(1939)で、怪優ライオネル・
アトウィルが扮したのが片腕のクローグ警部。“先代の”モンスター
に片腕をもぎ取られた体験を持つ、屈折したキャラクターだ。
それをモデルにしたケンプ警部を演じたのがケネス・マース。
上記『フランケンシュタイン復活』のパロディ映画である、メル・
ブルックスの『ヤング・フランケンシュタイン』(1974)において
だった。義手をギリッ、ギリッと音を立てて、暖炉の火を移して
葉巻に火をつけたり、ダーツの矢の立て台にしたり、という
ギャグが傑作で、
「達者なコメディアンを探してきたものだな」
と思っていたのだが、実はメル・ブルックス作品ではすでに、
ブルックスの出世作『プロデューサーズ』(1968)で出演済みであり、
ナチスマニアの脚本家、リープキンをナンセンスに演じていた。
DVDの特典に入っているインタビューによると、彼は役作りのため
数日間風呂に入らず、そのため、彼に抱きつかれたゼロ・モステルと
ジーン・ワイルダーが露骨にイヤな表情をしていたのが、自然な演技と
なって名シーンになった……のだとか。
他にも、モンティ・パイソン・グループのグレアム・チャップマンが
脚本・主演の『チーチ&チョン イエロー・パイレーツ』(1983)
では荒くれ船員と海賊島の拷問係の二役。拷問係の演技が最高だったが、
この映画では『ヤング・フランケンシュタイン』のマーティ・フェルドマン、
マドライン・カーン、ピーター・ボイルと共演している。一方で、1968年の
『明日に向って撃て!』では、後にヤンフラで共演することになるクロリス・
リーチマンと共演。どちらも小さい役だったけれど。
晩年はディズニー・アニメなどの声優で活躍していたが、そもそもが
声優出身で、1962年の『宇宙家族ジェットソン』がデビュー作であった
という。そのうちテレビドラマの脇役で顔出しの仕事であちこちからお呼びが
掛かるようになり、1967年に『それゆけ!スマート』にゲスト出演。
そこで原作・制作をやっていたメル・ブルックスに見いだされたのであろう、
翌年の『プロデューサーズ』での抜擢になる。
いかつい顔に、声優経験を生かしての素晴らしいセリフ演技、そして声優
あがりとは思えないパントマイム的な動きのギャグ、コメディアンとしては
完璧な俳優だった。もちろん、コメディばかりではなく、アイドル・スター
だったモリー・リングウォルドが、十代の母親を演じた『この愛に生きて』
(1988)では、彼女を妊娠させてしまった男子の父親の役などをやって
いたが、どこかにコメディっぽさが漂う。それは『刑事コロンボ』の中の
『殺しの序曲』(1977)でもそうで、マースは高い知能指数の人間しか
入会できない天才クラブ『シグマ協会』の役員役。ほんの数シーンの
出演だったが、出てくるたびにパイプが違っていたり、紙巻きタバコを
吸っていたりテンデンバラバラだった。あれはギャグのつもりだったのか?
そう言えばケンプ警部も、ときどき義手の腕が左右違っていたりしたっけ。
全身を癌に冒され、2月12日死去。
目を閉じると高校生のころ、映画館の暗がりで、秘かな悪事(別に禁止
されているわけではなかったが、当時の高校では、映画を見ることは決して
推賞されていなかった)の快感にワクワクしながら観ていた、
『ヤング・フランケンシュタイン』を思い出す。
R.I.P。