ニュース

新刊情報、イベント情報、その他お知らせ。

イベント

2011年1月29日投稿

イコン(聖像)だった女(ひと) 【訃報 アン・フランシス】

「SF映画2本立て
 ドクターXは人造人間を作って
 アンドロイドが戦うのさ
 ブラッドとジャネットも登場
 そしてアン・フランシス主演
 『禁断の惑星』
 さあ観よう 深夜の2本立て上映会」
         (『ロッキー・ホラー・ショー』オープニング)

SF・怪奇映画に限りないオマージュを捧げた『ロッキー・ホラー・
ショー』で歌われているように、アン・フランシスは『禁断の惑星』
(56)でSF映画マニアのイコンとなった。1930年生まれだから
このとき26歳だったはずだが、どう見ても20歳そこそこにしか
見えなかった。まあ、映画内では彼女は20年前に惑星アルテアに
向った宇宙移民団の生き残りであるモービアス博士夫妻がアルテアで
生んだ子、という設定なのでどう考えてもまだ20歳以下。
幼く見えるのはそういう演出なのかもしれない。
極端なミニスカート姿で、父親以外の男性に接したことがないため
言動も相手がドキリとするほど時に大胆、というキャラクターは、
今にいたる萌え系アニメキャラの遠いが直系の祖先である。

とにかくこの頃のアン・フランシスは可愛かった。
強烈な可愛さだった、と言っていい。
ジョン・スタージェスの異色西部劇『日本人の勲章』(55)は、
主役のスペンサー・トレイシー、悪役のロバート・ライアン
はじめ出演陣が実力派揃いで、ディーン・ジャガー、ウォルター・
ブレナン、アーネスト・ボーグナイン、リー・マーヴィンと脇役に
錚々たるメンバーが揃っているが、アン・フランシスは軽々と
彼らを飛び越し、キャストロール順でトレイシー、ライアン
に続く三番目という大厚遇を受けていた。

まあ、ヒロインなのだから無理もないのだが、脇役俳優好み
だった私は、これを見たとき、ああ、演技力なんてのは
可愛さの前には何の意味もないのか、と嘆いたものである。
もっとも、彼女はど新人などではなく、子役スターとして5歳の
ころから映画・演劇界で活躍していた。ステージデビューは1941年、
11歳のとき。ボーグナインのデビューが50年だから、
ショービジネス界ではずっと先輩なのであった。

子役出身の女優は、子供の時に身に付けた“可愛らしさ”の
演技を大人になってからも引きずるものである。
それがマイナスになる女優がほとんど(だから子役出身は
大成しないと言われる)だが、彼女の場合は大人の肉体と
演技の少女っぽさのアンバランスがプラスに作用した。
それが最も効果的に出たのが『禁断の惑星』のアルテラ役
だったのだろう。

日本人がアン・フランシスの魅力にまいったのはさらにその10年後、
1965年のテレビシリーズ『ハニーにおまかせ』。
普段は優雅なドレスに身を包み(当然、拳銃はガーターベルトに)、
探偵活動のときは全身黒のタイツ姿。峰不二子の、これは直系の
先祖的なスタイルの女探偵を演じて大人気だったがなぜか1シーズン
のみで終了。いくら若く見えても当時すでに35歳、やや若作りに
くたびれてきたのかもしれない。
http://www.youtube.com/watch?v=bcLbPTT7o3w&feature=player_embedded
↑ペットがオセロット、というのもユニークだった。

それからもさまざまなテレビ番組でゲスト出演を続けたが、
われわれが彼女を印象に強く残したのは70年代に入っての、
『刑事コロンボ』のゲスト出演だろう。
『死の方程式』では犯人ロディ・マクドウォールの愛人で社長秘書。
『溶ける糸』では犯人の心臓外科医レナード・ニモイの犯行の手がかり
をつかんで殺されてしまう看護婦。どちらも、かつてのアン・フランシス
を知る身としては老けが目立って悲しかったが、しかしいまだ健在を
知ってうれしかったのも事実である。

それ以降は日本未公開の作品が多く、ほとんど見かけなくなって
いたが、コンスタントに出演は続けていたようだ。2007年、
ガンにかかり、手術と化学療法を続けていたという。
2011年の訃報のトップを切って1月2日死去、80歳。

なお、80年代から90年代初めにかけて、本名のアン・ロイド・
フランシスを名乗っていた時期もあったようだ。“アンドロイド”
を連想させて、いかにもSF映画のイコンらしい。
黙祷。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa