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2011年1月12日投稿

キャリアを消した女 【訃報 ドミニ・ブライス】

12月15日、ドミニ・ブライス死去、62歳。
ガンだったという。

カナダに活動の主体を置き、シェイクスピア女優として
大変に評価されていたが、われわれスキモノにとっては
かの怪作ホラー『吸血鬼サーカス団』に出演していた
女優、という方が印象に深い。
どの死亡記事をあさってもこの映画のことはまるで出てこない、
キャリアから消された仕事ではあるものの。

すでにクリストファー・リーのドラキュラもピーター・カッシングの
フランケンシュタイン博士も飽きられはじめてきた1971年、
ホラー映画の老舗・ハマープロダクションが、恐怖にプラスして
耽美とシュールとエロをウリにしようと試みた作品のひとつがこの
『吸血鬼サーカス団』。観ていて、その奇妙な既視感は何かな
と思ったら、実相寺昭雄など前衛派が同時期に日本の変身ヒーロー
もので同じく耽美とシュールをテーマに(エロはさすがに子供もの
ではやれなかったが)して作品を作っていたのだった。

幼い子供たちも容赦なく犠牲になるという意外性、
(普通の吸血鬼の設定とは逆に)鏡の中にだけ姿を現すという
演出、双子の男女の吸血鬼の片割れがやられるともう一方も死ぬという
近親相姦的設定、十字架に弱い吸血鬼を、召使いなど十字架を
弱点としない連中がサポートするというタッグチーム的戦法など、
いろいろとこれまでの型を破る斬新なアイデアを盛り込んで
おり、何より美少年ジョン・モルダー・ブラウンと美少女リン・
フレデリックのカップルが今なお語りぐさになっているなど、
見どころが非常に多いのだが、見どころを盛り込みすぎて
肝心の吸血鬼との対決が今イチぱっとせず、消化不良を起こして
いるような、そんな作品だった(私は好きなんですけどね)。

市村正親が日生劇場で演じるような色男(?)吸血鬼ミッターハウス
伯爵が、自分に惚れた人間の女性(人妻)を使って幼い子供を館に
引き入れ、その血をくらっている。それに気づいた、女の夫を含む村人
たちがその吸血鬼を退治し、人妻は姿を消すが、十数年後、吸血鬼の
眷族たちがサーカス団を率いて、伝染病で外部と隔離されている
村にやってきて、子供たちを殺し、その血で親玉の吸血鬼を
甦らそうとする、というのがそのストーリィ。

で、その、吸血鬼と不倫関係になって、身も心も吸血鬼に捧げ尽くす
人妻役を演じたのがドミニ・ブライス。クリストファー・リーの
吸血鬼なら、血を吸った相手も吸血鬼になるのだが、この映画では
血を吸われた人間はただ死ぬだけ、なので彼女は血を吸われてない。
子供の生き血を吸ってビンビンになった(のであろう)吸血鬼と
セックスを始めるのだが、そのシーンで全裸を見せてくれる。
そのヌードのまあ、美しいこと! とりたててグラマーというわけでは
ないのだが、均整のとれた、おっぱいの柔らかそうな、適度に丸みを帯びた、
およそこれまで映画に登場した全裸のうちでも五指に入ると思われる
眼福ヌードであった。

残念ながらこの冒頭でドミニ・ブライスの登場シーンは終る。
実は彼女はその後、村にやってくるサーカス団の団長である
女ジプシーになっているのであるが、その役を何故か別の女優
(エイドリアン・コリ)が演じている。まあ、同じブライスが
演じていては村人たちに丸わかりになってしまうから困るわけで
あるが、しかしブライスの演じた女性は吸血鬼でも何でもない、
ただの人間という設定。それが、なぜ他の女性に変身できるのか
(最後に殺されると、もとのブライスの顔に戻るのである)、
まったく説明がないからわからない。

主演のジョン・モルダー・ブラウンもこの映画は自分のキャリア
に含めず、観たこともない(でも、サーカス団の小人役をやった
スキップ・マーティンとは親友なんだそうだ)という。
ドミニ・ブライスもこの作品をキャリアから消し、それどころか、
公開の翌年に祖国イギリスを捨ててカナダに渡り、その後
亡くなるまでモントリオールで過した。それほどにこの役が
イヤだったのだろうか。他のハマープロダクション作品に
比べても、そんなにひどいエログロではないと思うのだが。

もともと演劇志望で、出演者全員が舞台で全裸で唄い踊る
ミュージカル『オー・カルカッタ!』にも出演したというから、
脱ぐことに抵抗はなかったと思う。逆にそれで、この『吸血鬼
サーカス団』の役が回ってきたのだろうが、このままでは
こういう脱ぎ役ばかりになってしまう、という危機感を持った
のかもしれない。その舞台でカナダ・モントリオールの
ストラトフォード・シェイクスピア・フェスティバルの
ゼネラル・マネージャー、アントニー・チモリーノに
出会っていたこともあって、彼女はカナダにそのキャリアの
主体を移し、そこの主要メンバーとして、30年以上に
わたって活躍していた。

もし、そのままハマーに残っても、怪奇映画は70年代には
その市場を極端に縮小していたから、大した役は回って
こなかったに違いない。そういう意味では彼女の選択は
非常に正しかったのだが、しかし、ハマーファンとしては
もうあと何作かで、彼女の美しい顔を観たかったな、というのが
正直な思いなのである。別に脱がなくていいから。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa