声優・渡部猛氏２０１０年１２月１３日死去。７４歳。
肺癌治療中、肺炎を併発して。

アニメ『美味しんぼ』の京極万太郎役で一般にも知られるが、
私らにとっては東映ヒーローものでの悪役の声で印象に深く残る。
飯塚昭三氏と並ぶ低音悪役の雄であって、
『秘密戦隊ゴレンジャー』など、飯塚氏がテムジン将軍、
渡部氏が軍艦仮面などといったコンビで、低音同士のかけあいが
こちらを痺れさせたものだった。他にも『キカイダー０１』での
飯塚氏のギルハカイダー、渡部氏のガッタイダーなどという
組み合わせもあった。

その、低音コンビの友情が発揮されたのが
『宇宙刑事ギャバン』。悪の首領、ドン・ホラーを演じていた
飯塚氏の声が突然出なくなるというアクシデントがあり
（喉を腫らしてしまい、医者から止められていた冷水を飲んだとたん、
“喉仏をハンマーで殴られたようなショックがあり、一声も出なくなった、
とか）降板せねばならず、その後を引き受けたのが渡部氏。
しばらくは声優が変わったことに気がつかなかったほど完璧に
飯塚氏の代役を務め、番組に穴を開けなかった。
飯塚氏は
「なに、同じじゃないよ。渡部の声はただ低いだけで品がないんだよ」
と照れて悪口をおっしゃっているが、治療の間、声が戻るか不安で
引退も考えてウツウツとしていた飯塚氏を、渡部氏はじめ声優仲間が
常にはげまし、復帰に向けて助力していたという。
声優が今のような花形職業でない時代を共に体験している同士の
厚い友情だろう。

そうそう、『キカイダー０１』で声を演じた侍ロボット・ワルダーは
同じシャドウ組織の美女ロボット・ビジンダーと恋に落ち（！）
文通を交す仲となる（！！）。
ビジンダー（マリ）役は志穂美悦子。彼女はこのマリ役が実質的デビュー作
（その前は千葉真一の妹役でのチョイ役）であったから、渡部氏は
志穂美悦ちゃんの、最初の恋人役を演じた俳優、ということになるわけである。
アイドル声優は次々生れてくるが、渡部氏のような重厚で
かつ、ユーモラスな芝居が出来る声優さんがどんどんいなくなる。
いったいどうなっちゃうんだろう、と心配になるのである。
ご冥福をお祈りする。