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2011年1月8日投稿
実力派だった男 【訃報 アーヴィン・カシュナー】
最初に名前を知ったのは、フェイ・ダナウェイ主演の
サイコ・ミステリー映画『アイズ』(78)。
予知能力を持ってしまい、モデルの女性たちが殺される場面が
見えてしまうカメラマンがそれを犯人に気付かれて、という
本筋で押していけばいいのに、ファッションカメラマンが主役
なんだから、と、当時の最新ファッションに身を包んだ有名モデル
大挙出演、と、女性客をアテこんだオサレ映画にしてしまい、
カメラの話だけにピントがぼけてる、とうまいことを言いいたがりの
連中にクサされていた。確か都筑道夫が
「脚本のジョン・カーペンターも監督のアーヴィン・カシュナーも
気取り過ぎ」
と評していて、それでカシュナーという名前は記憶していた
(最近の表記は“カーシュナー”らしいが、最初に覚えた“カシュナー”
で本稿は通させてもらう)。
その、汚名を一気に返上したのはもちろん、『スターウォーズ/
帝国の逆襲』(80)である。
全6作中、最も“映画としての重厚さ”を持った作品として
いまでも評価が高い。
演出力がルーカスに比べケタ違いであった。
インタビューでハン・ソロ役のハリソン・フォードが興奮して
「あれは凄い監督だぜ!」
と力説していたなあ。
ことにダースベイダーと、その背後にある帝国の存在に凄まじい
深みを持たせたことがこの映画の最大の功績で、ピーター・カッシングを
起用してすら“まぬけな悪党”でしかなかった前作の帝国軍が、一気に
映画史上に残る悪の組織へと改変された。
そして次にはかの007を“ショーン・コネリーを使って”リメイク
した『ネバー・セイ・ネバー・アゲイン』(83)を監督。アメリカ人で
ボンド映画を監督した最初の人となる。脚本の出来がイマイチだった
のが残念だったが、この映画の白眉は何といってもスペクターの
女殺し屋ファティマ・ブラッシュを演じるバーバラ・カレラで、
ボンド映画の悪役の条件である“凄まじい強さ”と、“あっと驚く
印象的なやられ方”が素晴らしく、本来のヒロインであるキム・
ベイシンガーを霞ませてしまっていた。
さらに『ロボコップ2』(90)では、ヤク中のギャングの脳を移植
されたロボコップ2号のキャラが出色。主人公のマーフィーが
体をバラバラにされたり、戦意喪失してしまったりと全く
サエないのに比べ、ヤク中ギャング(殺人鬼、といえばこの役者、
であるトム・ヌーナン)のキレぶりがハンパじゃなく、ロボコップ
2号に移植後も、ブラウン管(?)に移植前の本人の顔が映し出される
というのがバカバカしくてよかった。
……これらを要するに、カシュナーという監督は悪役側の演出に
抜群の腕のさえを見せた職人監督、ということになる。
もっとも、ルーカスは『逆襲』があまりにシリアスな映画になりすぎた
ことに不満だったらしく、カシュナー(かつてのルーカスの
南カリフォルニア大学映画学科の先生)とぶつかり、カシュナーも
「次は自分で監督したまえ」
とやり返したとか。言われた通り、自分のいいなりになる監督を
つれてきて撮った次作『ジェダイの復讐(帰還)』(83)はルーカスの
希望通りの能天気な映画に戻ったが評判は芳しくなく、
後の新シリーズではルーカス自身がカシュナーの路線を踏襲する
ことになる。その結果、共和国側のキャラクターたちは
揃って脇役に押しやられ、何とダースベイダーが主役の悲劇に
なってしまった。あの壮大なスターウォーズ・サーガを作った
のは、実はルーカスではなく、カシュナーだったのかもしれない。
個人的に見てみたいのは、ショーン・コネリーがボンド役者からの
脱皮をいろいろはかっていた中の一本である『素晴らしき男』(66)。
コネリーが演ずるのは、詩的想像力があふれだすあまりに暴力的に
なってしまう詩人、というヘンテコな役で、女房は殴る、借金取りは
ひどい目にあわせて追い返す、かかり付けの精神分析医の
奥さんは寝取る、といった傍若無人ぶりを見せつけ、とうとう
ロボトミー手術を受けるがそんなものききはしない(!)という凄まじさ
なのだが、奥さんとの間に子供が出来ておとなしくなり、めでたし
めでたし、というトンデモ映画らしい。『ネバー・セイ・ネバー・
アゲイン』の前にすでにコネリーと仕事をしており、しかもこんな
内容の作品にも関わらず信頼されていた(コネリーは自分の気に
入らない監督の映画には絶対に出ないので有名)というのが興味深い。
あ、それともう一人、コネリーにロボトミー手術をほどこす医者の
役でクライブ・レビルが出ていたのであった。『帝国の逆襲』の
皇帝の声である。
その人の歳絶頂期を知る監督の訃報はつくづく、寂しい。
病気で長期療養中のところ、27日死去。87歳。
R・I・P。