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2010年12月17日投稿

知性を見せた男 【訃報 ハロルド・グールド】

まだ小林桂樹の訃報も書いていないというのに、関連ある訃報が
飛び込んできた。

俳優ハロルド・グールド9月11日死去、86歳。

小林桂樹とどこに関連性があるかというと、ジブリのアニメ『耳をすませば』
で、西老人の声をそれぞれ、日本語版と英語版で担当しているのであった。

本業は舞台俳優であり、その方面では大変に有名な存在だが、60年代から
70年代中心に映像の分野でも活躍し、ことに70年代にはテレビと映画で
その顔にお目にかからない年はない、というくらいひっぱりだこだった。
刑事コロンボ『死者の身代金』(72)ではコロンボと対立するFBIの
捜査主任、カールソン。
『スティング』(73)ではペテン師一味のリーダー格、ツイスト。
『サイレント・ムービー』(76)では老舗の映画会社ビッグ・ピクチャーズ
を買収しようとたくらむエンガルフ社の社長。口からアワを吹いて怒りまくる
演技は一見の価値あり。
『フロント・ページ』(76)では、無実の政治犯を死刑にして選挙の
ための点数稼ぎをしようとする悪徳市長ハービー。州知事の死刑中止命令
を持ってきた男を何とかごまかして怪しげな売春宿(自分の行きつけで
あり、そこでのアダ名が“ゼツリンちゃん”)にシケこませようとする
ドタバタが笑わせた。
TV『ソープ』(77)ではホモに悩み、性転換手術を受けようと入院した
ジョディ(ビリー・クリスタル)と同室になり、彼に生きる希望を語って
きかせる老人、バーニー。
その他、ウディ・アレン監督の『愛と死』や、ゴルディ・ホーン主演の
『昔みたい』にも出演しているし、無名時代に『ソープ』で共演した
ビリー・クリスタルがブレイクし、ビッグ・スターになって主演した
『マイ・ジャイアント』(80)でもひさびさに共演している。

悪役から善人まで、実に幅広い演技を、どの役柄でも楽々とこなして
いるが、それもそのはず、50年代にコーネル大学で演劇の博士号を
修得しているインテリ役者である。顔も、学者とか紳士とかいうイメージ
を地でいった上品な顔をしているが、しかし出演作にコメディが多いのは
ニューヨークっ子らしいシャレ気質からだろうか。ちなみに本名は
ハロルド・ゴールドスタイン。ウディ・アレンと同じくユダヤ系である。
コメディ俳優総出演だった『弾丸特急ジェット・バス』(76)では
超豪華原子力バス“サイクロップス号”の発明者のバクスター博士。
テロリストの仕掛けた爆弾の爆発で、金属片が心臓にめり込み、貫通して
アスファルトの地面に“縫い付けられて”しまい、起き上がれなくなる。
で、バスの完成披露パーティにはその地面に縫い付けられたままの
格好で出席し、頭に紙製の三角帽かなんかかぶってシャンパンを飲み
「いいパーティだ」
とかノンキなことを言っているのが実にアホらしくてよかった。

一方で、まともなインテリを演じての代表作は1977年のテレビ・
ミニ・シリーズ『権力と陰謀・大統領の密室』。
ニクソン政権をモデルにしたモンクトン大統領(ジェイソン・ロバーズ)
の政治顧問であるカール・テスラー教授を、グールドはトレードマークの
口ひげを剃り落として演じた。この役はおそらくキッシンジャーを
モデルにしているのだろう。度重なる失政で人気が凋落していた
モンクトン大統領に、中国訪問という、逆転ホームラン的外交を
果たさせる重要な役であった。大学出のインテリを嫌ったモンクトン
政権下で、インテリ中のインテリとして、モンクトンを腹の底で
バカにしながら、きちんと顧問としての勤めを果たすプロの外交官
を、グールドは見事に演じて存在感を示していた。

とにかく、出てくるだけで番組の格が一段あがる名脇役だった。
70年代がドラマの黄金時代と言われるのは、彼のような実力者が
ワキを支えていたからだと思うのである。

日本でもアメリカでも、力ある俳優が次々彼岸の人となる。
年齢的に仕方ないこととはいえ、哀しい。
R.I.P.(安らかな眠りを)。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa