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2010年10月4日投稿

ブロークン・ドイッチェ無事、千秋楽!

『あぁルナティック・シアター』への二本目の書き下ろし作品
『ブロークン・ドイッチェ』、10月2日、無事9回の全公演
を終えて打ち上げました。ありがとうございました!

考証の後藤修一さんが
「軍服等の考証は限られた予算内で、ほぼ完璧」
と自負されるナチス将校、そしてヒトラー総統は、毎回、終演後
の記念写真撮影が大人気だったことでもわかるように、大変な
評判をいただきました。

音楽を『妖怪プロジェクト』の天狗さん、ミュージカル曲を
グレート義太夫さんに作曲していただき、こちらも非常に
豪華なものでした。ミュージカルシーンでの拍手は毎回、
本当に気持ちよかったです。

ドラマの方も、この豪華なスタッフに負けまいと来人少年が
ポーラに抱く純情な恋心、小宮山博士と妻のサダの情熱的な
愛情、突如の恋に落ちるブシェイク博士とディートリヒ、そして
狭霧とファルケンシュタインとフレデリーケの奇妙な三角関係
(?)、さらには実験助手と実験台の腐関係(笑)と盛り
だくさんにしてしまい、交通整理が大変でした。

交通整理だけで2時間の芝居が終ってしまった感も演出家としては
あり、もう少しキャラクターを描き込みたかった、という欲は
ありますが、3本の芝居を一度に上演するというイベントの性格上、
そこまで演出するのは残念ながら時間的に無理がありました。
もし、再演の機会があればもっと作り込んでいきたいと思います。

役者さんたちも全員熱演でした。
ファルケンシュタインの佐々木輝之の万能ぶりに大いに助けられ
ましたが、少し無理をさせすぎたかな、とも。貴族的な将校の
台詞からいきなり佐々木の地に戻り、また将校になる、その
あたりの呼吸は彼以外には出来ないでしょう。軍服は実は
喉がしめつけられて苦手だったそうですが、実に色気を感じる
ナチス軍人が舞台上に現出しました。

ポーラの麻衣夢は役がつかめず不安な状態で演じていたそうですが
大丈夫、あて書きなのだからそのまま演じれば、と言ったら
「でも、悪役じゃないですか」
と(笑)。いや、それは結果として悪役になったわけで、本人は
12歳なのに天性で男をたぶらかす、ローレライ的魔少女なのです。

一方、佐藤歩の来人はもう、私の中にある少年もののイメージを
全部役の中にぶちこんで、しかも女性に翻弄されるあわれな被害者
の役をやらせるという趣味満開の演出、某新聞の記者さんにアン
ケートで“趣味でしょう!”と図星をさされました(笑)。

茗原直人さんと大村琴重ちゃんは、最初脚本にあった設定を大きく
上演時間の関係上削らざるを得なくなり、ご迷惑をかけましたが
本人たちの工夫で見事に記憶される役として成立させてしまった
のは見事。“次回も夫婦役で出たい”そうです。

ブシェイクの麻見さんの役は、ファンから役が小さいと文句を
言われました。まさに、この人主役でも作れるほどなんですよね。
次回のそれはお楽しみ、で。設定的に一番無理のある役なん
ですが、軽く成立させてしまったのは力量ですね、やはり。

ジャミラ役の菊田貴公ちゃん、歌が凄い。プロの麻衣夢とは
もちろん異るうまさですが、朗々と歌い上げるミュージカルシーン
での歌いっぷりはさすが詩吟で鍛えた声でした。

ディートリヒの別府明華ちゃん。稽古入りたてにちょっと私事で
悩み事があったらしく、元気がないのが気になりました。
少し強く指導しないとダメかな、と思っていたら、ある日
“吹っ切れました!”と稽古場入りしてきた、それからはエンジン
全開。凄かったなあ。プロの根性を感じました。

鬼瓦権之助役の松下あゆみ。彼女も体調不良で、“役を変えたら”
という進言もありましたが、いや、これは彼女でないと成立
しない、と信じてそのままにしました。期待に応え、歩との
対比で素晴らしい“絵”が成立したと思います。

長ゼリフを嬉々としてこなしていた萩原幹大こともやし。
うまくなったなあ、存在感出ているなあ、面白いなあ、もっと
使いたいなあ、と、どんどん出演シーンが多くなっていきました。
しばらく家庭の事情で休団するそうですが、来年の芝居には
出てほしいなあ。エリックとのカップル、観客で見事に爆笑
する人が特定されるのが面白かったです。あ、橋本ミハルは
最初なかった役なんですが、“出たい!”というのでネジこんだ
役。だけど、二回目に観に来たお客さんが“あの女将校が
出ていなかった”とブログで無茶苦茶残念がっていたくらいに
印象に残った役にしてしまったようです。舞台は出演時間が
多ければいいとは限らない。

岡田竜二の名前は今後岡田“ヒトラー”竜二と表記しないと
いけないのではないかと思えるほど、今回の意外性ある
ハマりぶり、ブレイクぶりは嬉しい事件でした。今年の
頭ごろ、彼とサシで飲んだときに
「9月にはちょっと暴れてもらうから」
とフっておいたのですが、こういう暴れぶりになるとは予想の
ナナメ上でした! 後藤さん、衣装協力のカンプバタリオン!
さんはじめ、今回観劇してくれたドイツマニアの方々全ての
絶賛を得た岡田ヒトラー、これが彼の演技開眼につながれば
こんな嬉しいことはありません。

フレデリーケと狭霧の二役を演じてくれた松原由賀ちゃん。
実は今回、彼女について語ることはあまり多くありません。
台本に書くときはずいぶん気を使いましたよ。で、これは稽古場
でかなり演技をつけねば、と。……ところが稽古に初めて入って
見てみたら、そこにもう完成形の狭霧とフレデリーケがいたん
ですよ。これはもう、そのまんまやっていただければそれで
よろしい、ということで、実に楽をさせてもらいました。
秋葉由美子さん(第一回演劇祭優勝劇団『MILES』の演出家)
が“去年の『オールド・フランケンシュタイン』のときとは
別人かと思った”と言ったくらいの成長ぶりでした。岡田も
そうですが、こういう、役者の急成長を目の当たりにするときの
喜びというのは、演出した経験のある者にしかわからない
ものでしょう。

……そして座長、橋沢進一のブンダーマイヤー! アドリブ力
というものがどういうものか、知りたければ橋沢進一の演技
を見ればそこにある、と言いたいくらいでした。
とはいえ、私も今回はまかせっきりではなく、彼の役にいろいろ
工夫をつけました。ヘルメットをかぶせたのもそうですし、
初日の開演前直前に近所の古道具屋で見つけた水筒を首から
かけさせたのも大成功。出てきただけで爆笑がとれる、最高の
ドジキャラがそこに現出しました。ヘルメットも水筒も、
フルに使って笑いをとっていました。いや、お見事の一言。

……力を入れた舞台ほど、終ってしまうと寂しさがつのります。
「幕が下りれば何も残らぬ」
というマクベスの台詞を劇中、フレデリーケに言わせましたが
これは私の思いでもあります。いや、もちろん演技の蓄積や
成長などは残りますが、芝居は基本、一期一会なのですね。

次にまたここで芝居がやれるのは、一年後の2011年10月。
どうか、そのときにはまた、会場まで足をお運びのほどを
お願い申し上げます。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa