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2010年7月9日投稿
船をひっくり返した男【訃報 ロナルド・ニーム】
映画監督ロナルド・ニーム、6月16日に死去。99歳。
かの『ポセイドン・アドベンチャー』で一躍名を上げた監督
であるが、それまではこの人の名は主にテレビの洋画劇場で
ときおりかかる、小じゃれたユーモア・アクションで
覚えたものである。ジャームズ・ガーナーがとぼけた
ヒーローを演じる『ダイヤモンド作戦』とか、マイケル・ケイン
とハーバート・ロムの演技対決が面白かった『泥棒貴族』など、
どちらもテーマ曲が素晴らしかったこともあって印象的で、
イギリス出身の監督らしいユーモアが随所に光るところが
お気に入りだった。
そういう作風の監督がどうしてまたパニック映画に抜擢されたのか
わからないが、ニームはヒッチコックのもとでアシスタントカメラマン
として映画界にデビュー、さらにマイケル・パウエルとエメリック・
プレスバーガーのコンビの映画『One of Our Aircraft Is Missing』
では特殊撮影でアカデミー賞候補にまでなっている。上下逆転した
豪華客船の中の彷徨、というカメラアングルの難しいサスペンス、
ということで、撮影に詳しい監督を、とプロデューサーのアーウィン・
アレンが抜擢したのかもしれない。ともかく、これで世界的大ヒット
を飛ばした(公開年の興業成績をコッポラの『ゴッドファーザー』と
分けた)あと、パニック・サスペンスの大御所みたいに扱われる
ようになり、パニックでSF大作『メテオ』、サスペンスで
フレデリック・フォーサイス原作の『オデッサ・ファイル』を
監督したが、正直な話、両者ともどうにも……な出来であった。
あくまでもこの人は小粋なアイデアで観客をニヤニヤさせながら
ひっぱっていくのが得意な監督。『ポセイドン・アドベンチャー』も、
思ってみれば船がひっくり返るパニックよりも、神を信じられなく
なった神父が神を憎むことで神の存在を再認識する、とか、警察署長と
元売春婦の奥さんの凸凹コンビ夫婦とか、そういう人間ドラマの描写の
方が印象的だったのであった。まあ、晩年がちと残念ではあったが
(小粋なアクションを撮る監督というのはジャック・スマイトにしろ
ジョゼフ・サージェントにしろ、何故か途中で大作を手がけて失敗、
才能が鈍化してしまうことが多い)、それでもサーの位を貰ったり、
81歳で離婚して82歳で再婚したり艶福家としても名を馳せ、
幸せな一生ではなかったかと思う。追悼の意味を込めてDVDで
鑑賞を……と思っても、パニック大作以外、作品の評価での代表作
である『ミス・ブロディの青春』を含め、まるでDVD化されて
ないのだな。……再評価の待たれるところである。