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2010年6月24日投稿

第三回ルナティック演劇祭終了御礼

いささか報告が遅くなってしまいましたが、去る6月20日、
第三回ルナティック演劇祭が無事終了いたしました。
この催しも下北沢に根付いた模様で、これも参加劇団と
ご来場いただいた皆様のおかげと思い、感謝いたします。

今回の参加劇団と演目は

☆子犬会議『おしゃべり樫の木を切る話』
田舎にある和菓子屋。のどかな暮しを送っていた一家だったが、
父親が亡くなり、遺産の相続、さらに道路拡張など、ややこしい
話が一度に舞い込んでくる。しかも、庭に生えている樫の木が
突然言葉を発し出し、マスコミや、そのしゃべる原因を究明
しようとする女子大学生などもやってきて、周囲がにわかに
あわただしくなる。呑気な母親では話にならないので、長男が
すべてのことを処理しているが、母親はどうも、夜中にその
樫の木と秘かに会話しているようだ。
そしてある日、その樫の木が……。

☆おまかせで、(←これが劇団名)『Virgin』
深夜のクラブ。倦怠期(?)のサラリーマンカップル、気の多い
彼氏に彼女がちょっとイラついているカップル、いかにも今ふう
な草食系男子と天然系の女子のカップル。最初はバラバラに会話
していた彼ら彼女らだったが、ふとしたはずみで話が交錯し、
やがて誰言うとなく、みんなで『大貧民』ゲームを始める。
気軽に始まった遊び、のはずだったが、やがてみんなマジに
なってきて、それぞれの人間性があらわになってくる。
延々とゲームは繰り返されるが、そのとき、それまでグループに
加わらず会話していた平凡なカップルが……。

☆Clown Crown『午後の素数』
主人公はちょっとドジで天然の新婚主婦。だが、新婚一ヶ月目で
夫はカンボジアに単身赴任。仲のよかった両親は交通事故で揃って
死亡、しかも追いかけるように夫がカンボジアで地雷に触れて
死去したという報せがくる。遺された猫のトラと二人、途方に
暮れる主人公。時期は夏のお盆。両親と夫の魂がこの世に帰って
くる。自分たちの死を受け入れている両親に比べ、まだ夫は
自分の身に起ったことを認識していない。早く彼に現世への
未練を断ち切らせないと自縛霊になってしまう。そして、そこに
もう一組、黒猫をつれた死神がやってくる。その死神が言うには、
主人公が自殺することになっており、その魂を地獄に連れていく
役目を負っている、とのことだった……。

☆夢現舎『あぁ自殺生活』
駅のホームで電車を待っている若い男。彼は人生に絶望し、
入ってくる電車に飛び込もうとしているところだった。だが、
なかなか決心がつかない。そんな彼に、同じベンチにいた
もう一人の中年男が話しかける。彼は死について、自殺について
とうとうと語り、若い男に死神のように自殺をすすめる。だが、
話しているうちに、彼もまた死を望んでいることがわかって
きて……。

の、以上4劇団でした。

結果から発表いたします。
優勝 Clown Crown『午後の素数』
最優秀演技賞  該当者無し
最優秀脚本賞  該当者無し
最優秀演出賞  該当者無し

優秀演技賞は四つに分割し、『おしゃべり樫の木〜』で、
主人公の家の庭を無断で通り抜けるおじさん、『Virgin』の、
後ろでずっと黙っているカップル、『午後の素数』のお父さん、
そして『自殺生活』の中年男、にそれぞれ。

審査委員:唐沢俊一 橋沢進一 本多慎一郎
     あぁルナティックシアター劇団スタッフ

最優秀賞が3つとも該当者無しになったのは、優勝チームを
含めたどの劇団にもそれぞれ、演技、脚本等、もう少し練り込み
が必要、と審査委員三人の間で意見が出たためで、前二回の時の
ような、傑出した印象を残すものがなかった、というのが結論
でした。いささか寂しい結果になりましたが、しかしそれぞれ
素晴らしいところは持っている劇団だと思うので、次回に
再チャレンジを期待するところ大、です。

毎回誰に、あるいは何にあげようか楽しみな唐沢俊一賞は
今回は、子犬生活の“樫の木”に進呈。この樫の木は小劇場
『楽園』に足を運んだ方にはおなじみの、劇場中央にでん、
と立った柱に紙をぐるりと巻き付けて木に見立てて作ったもの。
この、芝居に最も邪魔くさい柱をストーリィに堂々取り込んで
しまう、そのアイデアに手を打ちました。……実はもう、
最初に見たときから唐沢俊一賞はこれ、と決めていたのですが、
最終日に見た『自殺生活』にもちょっと目を見張りました。
ほぼ正方形の舞台の、斜め半分にコンクリ色のパンチカーペット
を敷いて、そこを駅のホームにしていたのです。普通、この劇場の
狭い舞台を見ると、演出家としてはいかにここを広く大きく
活用するか、を腕のみせどころとすると思います。それを、
さらに狭めて、半分しか使わないという発想の転換にアッと
膝を打ちました。実は調光スペースで、照明担当のYさんと
音響のHさんが、“唐沢俊一賞はどっちかな?”と賭けを
していたとか。それくらい、この二つは私好みのアイデア
だったわけです。

このように、アイデア的には面白いものがあり、四劇団
それぞれ特徴的でお互いカブらず、個性も十二分に発揮していた
にも関わらず全体的に低調という印象だったのは、第一回の
最優秀演技賞の藤木吾呂さんや第二回の最優秀演出賞の
藤丸亮さんのような、“スゴいのが出てきた!”という
型破りのパワーを感じさせる人に欠けていた、ということと、
芝居として完成はしていても完成形には至っておらず、
「ここでこうすれば」
という歯がゆい思いをした作品が大部分だったためです。
単に公演するというならそれでもいいでしょう。が、仮にも
演劇祭というコンクールで上演するのです、その一段上の
“何か”を見せてほしい、というのが審査員一同の思いでした。

Clown Crown『午後の素数』が優勝したのは、まずは優勝して
やろう、という意気込みが他の劇団に比べて格段に高かったこと、
ことに観客動員(この演劇祭ではそこも大きなポイントです)
に力を発揮したこと。細かいギャグ(殊にお父さん役がよかった)
もきちんとお客にフックさせていたこと、猫のトラ役の役者さん
の存在感、作・演出を兼ねる池田レゴさんの死神のキャラの
面白さ等々、細かく丁寧にポイントを稼いだ点にあります。
ストーリィも、ラストのひねりなどほう、と感心させられました。
牧歌的な子犬会議の『おしゃべり樫の木〜』も実はルナの劇団員
などの点数は高かったのですが、この、細部の作り込みの丁寧さ
でClown Crownに軍配が上がりました。

子犬会議は演劇人でなく、お笑いの人が中心になっているとの
ことで、そこをもう少し強調して、他のチームとの差別化を
行なっていけばもっといい結果になったと思います。芝居を
形作っていくのに慣れていない人たちが一生懸命舞台をやって
いる、という感じが出てしまったのが残念でした。

おまかせで、は裏話を聞くと、何か凄い内情だったそうで、
演助の秋葉由美子さんはよくまあ、毎度このようなドタバタを
まとめる役を振り当てられるなあ、と同情しますし、演出の
豪一朗さんの、それを何とか形にしてしまう技量は大したもの、
と思うのですが、エチュードで作っていった芝居のよさと欠点が
どちらも露呈した感があります。個々のキャラはそれぞれいい
ものを出していても、それを最良の組み合わせでからめ、
カタストロフまで持っていき、ラストに修練させるという
“演劇の快感”にまで高めるには時間がなかったかな、という
はがゆさが後に残ってしまったのは残念でした。

夢現舎さんは5月に本公演をやったばかりだそうで、こちらに
全力を注ぐ余裕がなかったか、という感じが惜しいところでした。
観客動員がポイントになるコンクールで二人芝居という大胆さは
大いにかいたいと思いますし、マス田喜晴(マスの字は□に/)
さんは風貌も何かピーター・クックを思わせるキャラクターで
大変に好感が持てたのですが、そうなると逆に本場英国の、
こういうシチュエーションのブラックスケッチはモンティ・
パイソンなどでこちらも知識がある分、もっともっとブラックでも
ナンセンスでもよかったのでは、と贅沢な要望がわいてしまう
舞台でした。

……以上、大変偉そうなことを言いましたが、審査委員という
役目上のこととご海容ください。実際はどの劇団の芝居も、
ものを演じ舞台を作っていくという魅力にあふれ、大いに楽し
ませていただきました。

好評につき、来年度からこの演劇祭は規模を拡大し、トーナメント
方式をとって、より賞としての価値を増したものになる予定
です。一度参加した劇団のリベンジも歓迎ですし、優勝した
劇団の、二度目を狙って……というチャレンジも面白いと思い
ます(詳細はここで、またルナティックシアターのHPで、決定
次第発表いたします)。

下北沢という街は演劇人たちが生み出し、形作っていく街です。
どうか、奮って参加し、共に街を盛り上げていきたいと願って
やみません。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa