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同人誌

2010年4月26日投稿

ドラキュラの血を継いでた男(訃報 マイケル・パタキ)

ドラキュラ役者の代表にしてイコンであるベラ・ルゴシは
ご承知の通り、ハンガリー生れである。
東欧系のエキゾチックなムードが、トランシルバニア生まれの
ドラキュラ伯爵にまさに適役だった。
その後、さまざまな俳優がドラキュラに扮したが、残念ながら
ルゴシの衣鉢を継ぐ、東欧系の役者はほとんどいなかった。
……と、思っていたら。それでキャスティングされたわけではあるまいが、
ルゴシと同じ、ハンガリー系のドラキュラ役者が一人だけいた。
それがマイケル・パタキ。
パタキという独特の姓の持ち主はニューヨーク州知事にもいたが、
これはハンガリー系の由緒ある姓なのである。
まさに、彼が映画で演じた役は、はるかルーマニアのトランシルバニア
に祖先を持ちながら、今はアメリカに居住しているという役だった。
名前もマイケル・ドレイクという平凡きわまりないものになって。

その映画の題名は『ドラキュラ・ゾルタン』(1977)。
1975年の『ジョーズ』のヒット以来雨後のタケノコのように
ぞろぞろと製作された動物パニックものも、クマ、タコ、シャチ、
ミミズなどと続いてややネタ切れになり、そのうち
「そうだ、犬に人間を襲わせよう。でも、ただの犬じゃパンチ不足
だな……そうだ! 犬を吸血鬼にすれば怖いぞ!」
と考えて(たぶんそうだろう)製作された、吸血鬼もの+動物パニック
もの、という傑作(?)アイデアの映画である。

この作品で主役の、ドラキュラ伯爵の子孫を演じたのがマイケル・
パタキ。ルゴシ以来のハンガリー系ドラキュラ役者という栄光に
浴しはしたものの、吸血鬼役はあくまでこの映画ではドラキュラの
飼い犬(正確にはドラキュラの召使いの飼い犬)であり、彼自身は
回想シーンの中でドラキュラ伯爵を演じるのみ。
あとは、バン・ヘルシングの役どころであるルーマニアの刑事
(名優だがしかし何にでも出るホセ・ファーラー演)とコンビで、
ドラキュラの召使いが操る吸血犬ゾルタンと戦う、という立場で
あった。彼らはマイケルを吸血鬼にして、新たな自分たちの主人とすべく
マイケルを襲うのである(よくわからない設定だ)。

思えばなぜ栄光あるドラキュラの子孫ともあろう人物がアメリカに
渡り、過去も忘れ、名前も捨てて生きているのか。こっちの方が謎
だと思うが、映画はそこには答えてくれない。
ハンガリー系の姓を持つマイケル・パタキも、出身はオハイオで
あり、ルゴシのような、祖国ハンガリーに対する屈折した思いは持っては
いなかったようだ。いや、彼の場合、むしろ人種だの国籍だのは
何の意味も持たないものだったかもしれない。

22歳でデビューしてから50年、テレビに映画に、とにかく
ありとあらゆる役で出まくった。イタリア人の役あり、フランス人
の役あり、ドイツ系の役あり、ユダヤのラビの役あり。
祖国がどこだろうと、そんな混乱で悩んでいてはつとまらないくらい、
いろんな人種の役を演じた。『ロッキー4』ではソビエトの
スポーツ担当官コロフを、『スタートレック』ではクリンゴン人
まで演じている。コメディからホラー、SF、晩年はアニメの
声優でも人気で、『バットマン』では下水道王なる、ゴッサムシティ
の地下溝を全て支配しようとする、映画『バットマン・リターンズ』の
ペンギンのような悪党を演じていた。

主演は上記の『ドラキュラ・ゾルタン』一作であるようだが、
しかし多才で監督業も務め、『Mansion of the Doomed』などの
低予算ホラーの他、ソフトポルノ・コメディ・ミュージカル
『シンデレラ』などは評価も高い。アメリカの映像界に時折出現する、
多才多忙の典型のような人物だった。
4月15日、癌のため死去、72歳。
黙祷。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa