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同人誌

2010年3月7日投稿

月を滅ぼした男(訃報 ライオネル・ジェフリーズ)

ハリーハウゼンの人形アニメが楽しい『H・G・ウェルズのSF月世界探検』
(1964)。今から三十年くらい前は昼間のテレビでよくかかっていた。
クォーターマス・シリーズのライターだったナイジェル・ニールの脚本が
遊び心に満ちて極めて秀逸で、人類初の月着陸船が月面で古びたユニオン・
ジャックを発見するという洒落っ気たっぷりの冒頭から19世紀に話が
さかのぼり、同じウェルズの『宇宙戦争』の、火星人が地球の微生物に冒されて
全滅するというオチをひっくり返して、一人の地球人がひいていた風邪がモトで
月世界人が全滅してしまうという皮肉に満ちたラストまで、クラシカル・SFの
粋を集めたようなストーリーがまことに楽しかった。
この、風邪っぴきで月に行ってしまった“うっかり博士”を演じたのが
ライオネル・ジェフリーズ。2月19日死去。
ちなみにウェルズと並ぶもう一人のSFの始祖、ジュール・ヴェルヌの
『月世界旅行』を原作にした『ああ月旅行』(1967)にも出演している。
よほど月世界が似合うのか、いや、クラシカルな世界観の話に似合う顔
なんだろう。

剃っているのかハゲているのかツルツルの坊主頭に巨大な鼻、その鼻に
負けぬ立派な口ひげ。007シリーズのアルバート・ブロッコリが
プロデュースしたファンタジー『チキ・チキ・バン・バン』(1968)
が代表作とされるが、こういうファンタジーには、見ただけで
ユーモラスさのただようこういう俳優が必要不可欠なのであった。

リチャード・レスターの隠れた佳作『ローヤル・フラッシュ』(1975)
では殺し屋・クラフトシュタイン。鉄製の義手をつけて優雅に(?)
ダンスなど踊っていた。この映画、『ゼンダ城の虜』のパロディ
だったが、その後、ちゃんと本家の『ゼンダ城の虜』(1979)
にも忠義の士、サプト将軍役で出演している。最も、主演がピーター・
セラーズのドタバタコメディであったが。

それにしても、83歳という享年がこれほど若く感じられた俳優も
ちょっといない。てっきり100を越えていると思っていた。
生年が1926年ということは、上記の『月世界探検』のときには、
まだ38歳だったのだ(写真をごらんいただきたい。30代に
見えますか?)。やはり若いうちから歳を食って見える俳優ほど、
俳優生命が長いという典型例だろう。『チキ・チキ・バン・バン』で
ディック・バン・ダイクの父親役をやったとき、ジェフリーズの
実年齢はバン・ダイクより6ヶ月若かったという。
http://www.youtube.com/watch?v=zNpWBMNyC0w&feature=player_embedded
↑歌うライオネル・ジェフリーズ。42歳!

やっと見かけの年齢が外見に追いついたあたりで病魔に体を蝕まれ、
長い闘病生活の末死去。本当に長い間、我々を楽しませてくれました。
こういう役者がいてこそ、映画は楽しいのである。
黙祷。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa