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2006年11月30日投稿

実相寺昭雄監督、死去

29日深夜、『シルバー假面』配給会社からの報で知った。
その日の試写会でかなり具合がお悪そうで、夕刻に危篤状態になり、
亡くなったとのこと。
半年前に胃癌が発見されて胃の全摘手術を受け、退院後に撮影に
入った『シルバー假面』を“僕の遺作”と言いながら壮絶な演出を
つけていたようだ。
とはいえ、退院をしらせる直筆ハガキには、例の達筆で
「腹に一物もなくなった私ですが以前同様におつきあいください」
とあったし、ほんの数日前、私からの伝言をNHKの友人が
電話で伝えたときもお元気で、こちらからのお仕事の依頼に
「いま、ちょっと忙しいので、閑になったらぜひ……」
と、大変前向きなお答えで、心強く思っていた矢先だった。

もちろん、子供時代からの、その演出作について語り出したら
いくらスペースがあっても足りない。たぶん、私らの世代が生れて
初めて認識した“カルト監督”だった。

ある種の“神”だったそのご本人に、加藤礼次朗の結婚式で
お会いしたとき、あがっているこちらに向うから
「ファンです、サインください」
と言われたときの驚愕と恐縮、そしてうれしさ。
その後何度も酒席をご一緒したが、最初の一回だけだった、
作品の話などをしたのは。他は“ロッパピイピイ”とか、そんな
話ばかりで……(「“ロッパピイピイ”ってなんですか」「唐沢さん
ともあろう人が知らないとは情けない。イチモツの大きさです。
こう、キツリツしたときに、その上にヒヨコを並べるとね、
6羽までは乗るが、7羽目が片足だけで、バランスを崩して落っこって
ピイピイ鳴いてるという……」)。
文人の韜晦趣味というやつか。
「実相寺演出って、実は大変に娯楽性の強いものなんじゃ
ありませんか?」
というこっちの無遠慮な質問に
「そうそう、あれ(被写体の前にものを置く独自の構図は)は
カメラ前に何かあって、それを写し込まないためにカメラ位置
変えるのがめんどくさいから、ああやったの。早く撮影終わって
飲みに行きたくてね」
などと答えていたが、誰も本気にはしないだろう。
『シルバー假面』撮影現場に立ち会った中野貴雄監督によれば
その“絵”へのこだわりは凄まじいものがあったという。

最初で最後だったが、私のラジオ番組においでいただいたとき、
待ち合わせたTBSのロビーから内部へ、許可証なども受け取ろうと
せず、そのまま、自分の家に入るような、ごく自然な感じで
入った。警備員が当然のことながら駆け寄って注意しようとしたが、
一切彼らを眼中にいれない、その全身から発するオーラのような
ものに気圧されたのか、
「ちょっと……」
と言いかけて途中で彼らの手と言葉が止まり、そのまま
引き下がってしまった。
“カリスマ”というものを実際目の当たりにした気がしたものである。

今は何も考えられない。
ご冥福を祈る、という言葉がこれほど空しい気がする人も珍しい。
混乱と空虚が頭の中をかけめぐっている。

(イベント欄でこういうことを書くと何か言われそうだけど)

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